書物‐弐‐

□幸運の雨
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『…………妖一先輩』

「あ?」

『雨降ってます』

「あぁ、そうだな」

『傘がありません』

「俺も持ってねぇな」

『どうしましょう』

「知るか、テメェで考えろ」

『えー』


今朝は快晴。
気持ちいい風も吹き、絶好のアメフト日和でたっぷり練習も出来て最高の気分!
…で、1日が終わるはずだった。

他のメンバーはすでに帰っており、部室には俺と大好きな妖一先輩の2人のみ。
外は土砂降りで、傘なしではずぶ濡れになる事間違いなしだ。
しかもお互い傘はないという。
…終わった。


『………そこら辺にドラ〇もんいませんかね』

「いる訳ねーだろ」

『……ですよねー……はぁぁー』


……どうしよう………んー………あ、そうだ!!


『ちょっと傘パクってきます!!』

「あ?…ッオイ!まき!!」


妖一先輩を部室に残して出来る限りの全速力で校舎まで走って行った。
目的は他の生徒が置いていっているであろう置き傘。
大きいのを2本探し出してまた全速力で部室へ帰った。


「馬鹿かテメェは!!」

『すみません…』


まぁ、ずぶ濡れだよね……妖一先輩の雷付きです。
傘は手に入れたけど、俺自身はびっちゃびちゃで制服の裾からは滴り落ちて足元に水溜りを作っている。
妖一先輩は呆れつつも俺の頭をタオルで拭いてくれた。
めっちゃ嬉しいけど、絶賛お怒り中なので複雑です(笑)


「ちったぁテメェの事も考えやがれ糞まき……風邪ひかれっと俺が困んだよ」

『…ごめんなさい』

髪の毛を触って乾いてるか確かめてるこの手つきが落ち着く。
好きな人に触られるのって、ドキドキするけどすごく良い気分になる。

……………………………………ん?


『あ…あの……妖一先輩…?』

「あんだよ」

『あの………“俺が困る”って、どういう意味ですか?』

「……」

『?…いだだだだだだだだだ!!』


先輩の言った言葉で頭の中に疑問符が浮かび上がったから聞いてみた。
そしたら頭を鷲掴みにされてしまった……めっちゃ痛い。


『ギブッ!先輩ギブです!』

「はぁ……言葉にしなきゃ分かんねぇのかテメーは」

『はい!分かりません!』

「…」

『あだっ!』


聞かれた事に素直に答えたら拳が降ってきた。


「ほんっっっっとに!馬鹿だな」

『ぶぅぅ…』


………ちゅ……


『っ…?…………………!!!?』

「ケケケ、トマトみてぇ」

『〇×@¥*#&%$!!!?』


頬を膨らませて拗ねていると唇に何かが触れた。気が付くと妖一先輩の顔があってキスをされたことに気が付いて一気に顔が熱くなる。
フライパンに卵を割ったら焼けるんじゃないかってぐらい熱い。


「うっせ!黙らねーとまたその口塞ぐぞ」

『黙ります!!』

「よし、帰んぞ」

『え、あ…待って!』


なんだかんだやっているうちに雨はすっかりやんでいた。
少し前を歩いている先輩に並ぼうと小走りで駆け寄ると手を握られる。
表情までは見えなかったけど、耳が少し赤かった気がした。


−終−
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