書物‐弐‐

□貴女だけ…
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黄瀬がサインをもらってる2人に丁寧に対応してくれているのを見ていると、不意に緑間の表情が少しばかり曇る。
そっとまきが手を握ってみると、ピクッとして握り返してきた。


『そんな顔しないで。俺はちゃんと真太郎の隣にいるよ』

「…分かっているのだよ」


緑間が屈み、まきが背伸びをして触れるだけのキス。
それを黄瀬は沙紀子と加奈恵に見せないように視線をうまい事自分に釘付けにする。


(全く……お熱い事で……)


なんだかんだ思いつつ、2人を気遣う。


『…試合、絶対勝ってね』

「あぁ、勿論だ」


緑間の瞳に、確信の色が宿るのを見たまきは安堵した。
真太郎は負けない、何が何でも…!



― ― ―



「アンタの彼氏、強すぎ!」

「黄瀬君負けるとか超ショックぅー」

『いやいや、結構ギリギリだったよ?黄瀬君強くなったなー』

「まき」

『あ、真太郎!お疲れ様』

「あぁ」

「いやーっ、今度こそは負けないと思ったんスけどねぇ」

『黄瀬君もお疲れ様』

「あざっす!…それにしても、緑間っちはホントに羨ましいっスね。
こんなに美人で優しくてわざわざ自分の時間を割いてまで試合を見に来てくれる彼女がいるなんて…!」

『……俺って美人?』

「うん」

「間違いなく」

『えー?』

「ねっ、緑間っち!まきっちは美人スよね!」

「……」

「…顔、真っ赤っスよ」

「煩いのだよ!」

「あ、まきの彼氏君照れてるぅ!」

「かーわいいー!」

「なっ…!!」

『加奈恵、沙紀子…俺まで照れてくるからやめて…』

「「「ヒューヒュー!!」」」

「『煩い!!』」

「真ちゃーーん!!」

「…げっ!」

「「『……真ちゃん…?』」」


緑間をちゃん付で呼ぶ声にまき達は同時に声のする方に振り向いた。
そこには秀徳のジャージを着た小柄な少年が手を振りながら走ってきている。
当の緑間は物凄くいやそうな顔をしていた。


「ちょっと真ちゃん、俺を置いてくとか酷くない?しかも打ち上げでないとか!どうした訳?」

「別に理由など無いのだよ。主将には断りを入れている」

「真ちゃんが最後の勝ち点取ったんだから真ちゃんいないと盛り上がらないじゃーん!!………ん?」

『…ん?』


あ、目が合った。


「……………もしかして真ちゃんの彼女!!?まじd「うるせぇーのだよ!!」うぉっ耳っ!」

「まーまー緑間っち、落ち着くっスよ」

「行くぞまき!」

『え?ちょっ…!みんなまたねー!』

「お疲れっス〜」

「また明日ねー」

「バイバーイ!」

「ちょっと、真ちゃーん!」



― ― ―



『……良かったの?友達置いてきちゃって』

「高尾は友人などではないから問題ない」

『ふーん、打ち上げは?』

「今日は絶対出ないと決めていたのだよ」

『なんで?』

「…まきの誕生日だから」

『…あ……』


(そうか、すっかり忘れてた…。20歳過ぎてから別に喜ぶものでもなかったから)


「誕生日おめでとう、まき」

『!…ありがとう真太郎』


お祝いの言葉と同時にまきの首にかけられたのは小さな誕生石がついたシンプルなネックレス。
嬉しすぎて一筋、涙が零れ落ちると緑間はそれを手でそっと拭って優しいキスをしてくれた。
今までで一番嬉しいプレゼント、明日あの二人に自慢しようと思ったりする。



−終−
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