書物‐弐‐
□貴女だけ…
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「…もしもし」
≪あ、真太郎?どうしたの?急に電話してきて≫
「…今、大丈夫か?」
≪うん、全然。丁度お風呂から出てきたとこ≫
「そうか」
≪…どうかしたの?≫
夜の10時過ぎ、緑間はある人物に電話を掛けた。どうしても、その人の優しい声が聞きたくて。
≪…分かった、寂しいんでしょ?≫
「……別に…そういう訳ではないのだよ」
≪クスッ…はいはい≫
「わ、笑うな!」
≪ごめんごめん≫
「…まき」
≪分かってる、明日でしょ?練習試合。ちゃんと見に行くよ≫
「ん…」
言いたい事を先に言われ、しかも図星をつかれて少し照れる。
柄にもなく寂しいと思うと体が勝手に携帯を手に取り勝手に掛けてしまう。
それでもまきは受けて止めてくれるから緑間は安心して甘えられる。
≪明日、確か海常とでしょ?黄瀬君に負けないでよね?≫
「あんなにチャラチャラした奴に俺が負ける訳ないのだよ」
≪知ってる…じゃ、明日ね。ちゃんと暖かくして寝なさいよ?≫
「分かってるのだよ」
≪おやすみ、真太郎≫
「…おやすみ、まき」
ピッ……
携帯を閉じ、緑間は布団に入る。彼女の前で恥を掻くにはいかない。
ましてや黄瀬に負けることなどあってはならないのだよ。
固く決心すると、明日に備えて目を閉じて眠った。
― ― ―
朝早く、まきは寮の自室で支度を整えていた。恋人の試合を見に行くために。
「まきー、これから沙紀子とパフェ食べに行かない?」
『あ、ごめん加奈恵。今日は彼氏の試合見に行かなきゃいけないから俺パス!』
「…え、アンタいつ彼氏なんて出来たの!!?」
『ん?3年前』
「マジかよ……うわーー先越されたぁー!!」
『先越されたって……加奈恵可愛いんだから彼氏の1人や2人すぐに出来るでしょ?』
「無理だよーアタシの理想に合う人いないんだもーん」
『妥協しろよ』
「つか、まきの彼氏スポーツ選手なの?」
『うん、秀徳でバスケやってる』
「げっ、年下かいな!」
『うん、高校1年』
「身長は?」
『195cm』
「はぁ!!?巨人かよ!!」
『彼氏の知り合いに2m超えてるのもいるよー』
「はぃぃぃ!!?」
聞きなれない数字に驚きを隠せない加奈恵に返事をしつつ準備を終わらせる。
『(今の時間に行けば真太郎の顔見れるな…)…じゃ、俺行くね』
「え、待って!アタシ達も行く!!」
『は?ついてくんの?』
「沙紀子ぉ!!まきが彼氏のトコに行くんだって!!」
「マジ!?行く行くぅ!!」
『別に構わないけど、パフェどうすんの?今週から新作出たんでしょ?』
「「そんな物よりまきの彼氏観察の方が大事!!」」
『……マジか』
そんなにまきに彼氏が出来た事が珍しいのか、あんなに楽しみにしていたパフェをパスしてまで緑間を見たいと来た。
「まきの彼氏ってイケメン?」
『当たり前じゃん』
「年下のスポーツマンなんだって!」
「マジで!?超ヤバいじゃん!!身長は?」
『195cm』
「パネェ!!巨人かよ!!」
「アタシもそう思った!!」
『はいはい、騒いでないで行くよ』
「「はーーい!!」」
子供みたいに騒ぐ2人を連れて目的地に向かった。
会場に着くまでずっと緑間の話題ばかり、まるで大阪のおばちゃんみたいだと心の中でまきは笑う。
「うわーー、すっごい人だね」
『黄瀬君のファンの子達じゃない?』
「原宿とか比じゃないじゃん……つか、まき黄瀬君と知り合いなの!?」
『うん』
「マジ!!?」
「ヤバい!超うらやましい!!」
『そんなに好きなら、今から会いに行く?多分彼氏と一緒にいると思うから』
「「行く!!!」」
(黄瀬君、大人気だな。…早く真太郎に会いたい)
電話をすると会場の裏で丁度2人でいると言うので、いまだに大騒ぎしている大阪のおばちゃん2人を連れて小走りで向かった。
『あ、いた…真太郎!』
「!まき…!」
「あ、まきっち!お久しぶりっス!」
『久しぶり、黄瀬君』
「はぅぅぅぅ〜!」
「本物の黄瀬君だぁ!」
「?まきっちの友達っスか?」
『そう、加奈恵と沙紀子』
「どもっス!」
「いっ、いつも応援してます!!」
「お会いできて光栄です!!」
「…黄瀬のファンか?」
『うん、俺についてくるって聞かなくてさ』
「そうか……」