書物‐弐‐
□まさかの日常
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待ってる間、スカウトは続いていた。俺は一切首を縦にっ振らない。
だって、芸能界って結構エグいじゃん。
あんな風に報道されたら死んだばあちゃんになんて言われるか分かったもんじゃない。考えただけで鳥肌が立つ。
『だから行きませんてば!』
「そこをなんとか〜お願いしますよ〜!」
『っ…あんた等いい加減に…!!』
あまりにもしつこいので怒鳴りつけてやろうとした瞬間、かなりのバイクのエンジン音が聞こえてきた。
……妖一だ!!
「YaーーーHaーーー!!!」
『来た!!』
「!……うっそ、すごいバイクの数!!」
葉柱君の後ろに堂々と乗っていた金髪の悪魔が俺の前に降り立った。
周囲の人達はバイクの爆音に何事かと集まりだす。
妖一は俺を抱き寄せると、いつもの手帳を出して器用に片手でページをめくっていく。
それを黙って見つめているとめくっていた指がぴたりと止まった。どうやら載っていたらしい。
「ほほぅ……、事務所の金を100万も着服、社長の奥さんと愛人関係…」
「「!!!?」」
「バラされたくなきゃ二度と俺の女に近づくんじゃねぇ!!」
「「ひぃぃぃっっ!!!」」
2人は血相を変えて人混みの中に逃げて行った。
『…ふぅ……、ありがとう妖一』
「おう」
『あーー、疲れたぁ!』
「ほんっと!もうやだわーあんなん…」
『でも志帆、乗り気だったじゃん』
「あ、バレた?実はちょっと狙ってた」
『やっぱり』
「テヘペロ☆」
『よし、帰ろう』
「ちょっと!スルーすんな!」
重い荷物をバイクに乗せて楽々帰宅。
志帆を見送ってからうちに帰って、お風呂上りに買ってきた物をベッドに並べて写真を撮る。
頭のてっぺんから足元まで女の子っぽくなく、かと言ってボーイッシュになりすぎない物ばかり。
「結構買ったな」
『うん、大分安かったからね』
「…」
『?』
部屋に入ってきた妖一が買ってきた物の中から赤と黒のリングピアスを手に取った。
アクセサリー店に寄った時、デビルバッツの色だと思い2つ購入したものだ。
それを取り外すと、俺が元々つけていた彼とお揃いのシルバーリングのピアスと取り換えた。
『妖一?』
「…似合ってんな」
ちゅ…
頬を撫でて触れるだけのキスをすると妖一はケケケと笑い風呂場に消えて行った。
一人部屋に取り残された俺は湯上りとは別の熱で顔を赤く染める。
『……バカ』
ピアスを元の物に戻して買ってきたのはアクセサリーケースにしまい、洋服をクローゼットに入れていった。
…今度、デートの時はどれ着てこうかな。
この世とは思えない美しい金髪の悪魔が恥を掻かないようにしなきゃ。
……なんてね。