書物‐弐‐
□魔人の宝物
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「うわぁー!このお饅頭おいしそー!!」
『…弥子、さっきから饅頭しか見てないじゃん』
「え、そう?」
『もしかして……もうお腹減ってる?』
「うん」
『早っ』
約30分前、弥子は大きなバイキングを壊滅させて上機嫌で帰ってきた。
忍ちゃんも弥子が食べてる隙に食べて幸せそうな顔をしてご帰還。
お茶で一服してから俺達はお土産を見ている。
「これでしょ?あとは……あっ、あれもいいなぁー」
『…弥子さ、大食い大会にでも出れば?』
「ん?なんで?」
『食い意地張りすぎ』
「そうかなぁ?」
他愛もない話をしながらお土産を購入して部屋に帰ると、部屋では忍ちゃんがネウロにプロレス技をかけられていた。
「ごっ、吾代さん!!」
『…何してんの』
「ム、マキか。下僕2号がマキと我が輩の仲を探ってきたのでな、お仕置きをしていたところだ」
「探ってねー!!」
『はいはい…2人ともどいて、布団敷くから』
遊んでいる2人(1人は絶対違う)を部屋の端に追いやり、弥子と布団を敷いた。
ネウロは上着とスカーフを外すと早々と天井に移動……ちょっと待て。
『ネウロ、その位置はやめて』
「断る」
『断るなコラ』
「………吾代さん……」
「……あぁ……」
忍ちゃんと弥子は冷や汗をかいている。そりゃそうだ。
天井で寝ている位置が2人の真上なのだから…。
ネウロが落ちてきて怪我でもしたら大変だから、俺は天井で目を点にして笑っているコイツを降ろそうと必死になる。
『ネウロ、降りてきて!』
「フン」
『降りてこないんだったら1ヶ月間お触りもキスもそれ以上も禁止だかんね!』
「!……チッ」
俺の言葉に一瞬驚いた表情をしたネウロは舌打ちをして渋々降りてきた。
これで一安心。
『一緒に寝ればいいでしょ?わざわざ天井にいなくても』
「…良いのか?」
『当たり前でしょ?いつもは断りもなく入ってくるくせに、こーゆー時だけ尻込みするとかアンタらしくないよ』
「…フン」
『……こうしないと寝れないの』
隣に寝転んだネウロの大きな体に抱き着く。
ネウロと出会う前は部屋で一人で寝いて、落ち着かなかった。
だから、この瞬間が嬉しくてたまらない。
『おやすみ…』
「…嗚呼、おやすみ」
ネウロの腕に包まれて俺の意識はゆっくりと睡魔へ落ちて行った。
早朝に目を覚ますとわずかにあどけなくて綺麗な寝顔のネウロを目の前にして心臓が爆発しそうになったのは秘密だ。
― ― ―
『…………本当に買ったんだ……それ……』
「くだらんな」
「魔人のアンタにはこの幸せな気持ちは分からないでしょうね。
フワフワの生地にしっとりとした程よい甘さのあんこ!一口で天にも昇る思いだよ!!」
『だからって本当に昇天しないで…やめなさいネウロ』
弥子が持っていた直径1メートルの巨大饅頭を顔に押し付けて窒息させようとしているネウロの横腹をどつく。
朝風呂では魔界魚と一緒に入浴したり、源泉で嬉しそうに喜ぶ恋人を見たり…。
普通の生活してなくてよかったと思ってしまうあたり、相当俺はネウロに毒されてるんだなーと思う。
それがとても幸せだ。
−終−