書物‐弐‐

□楽しんでこーぜ
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『ありがとう、鉄平』

「どういたしまして」

『へへっ………………ん?…………あっ!!』

「ん?」

『思い出した!!』

「何をだ?」

『今日、給料日……………』

「…………………………ふっ……はははは!」

『あははははは!』


おっちょこちょいなまきが可笑しくて木吉は思わず笑ってしまった。
それにつられてまきも笑ってしまう。

給料日をギリギリで思い出し、木吉に負担をかけずに済んだとホッとする。


― ― ―


「……ぐすっ………良い話だったなぁ…ぐすん。
ドラマが映画化するとこんなに感動するもんなんだな!」

『いや、それ鉄平が涙もろいだけでしょ。
大体どこが泣けたのよ……すごく面白かったけど』

「あの主人公の刑事が仲間を庇って撃たれて最後の力を振り絞りながらしゃべるシーン、思い出したら……ぐすっ………また泣けてきたぁ…」

『……………またベタなとこで泣くね……そんな人初めて見たよ』


ぐすぐすと泣く木吉のそばに座り頭を撫でてやる。
何も知らない他人から見ればまるでまきが泣かしたように見えるが、この大男はベタベタな展開で泣いているだけだ。


「すんっ………すまんな、まき」

『別に、泣き止んだ?』

「あぁ……すまん、もう大丈夫だ」

『くすっ……目真っ赤じゃん』

「…そんなにか?」

『うん、かなり……ふふっ……落ち着くまで待とうか』

「はは……すまんなぁ」


目薬をさしてやったり、冷たい缶ジュースで冷やしたり。

ショッピングモールで目的の物を買ったり、気になった店に入ったりと、デートを楽しんだ。


『いいなー………欲しいなー………………でも凄く高い……』

「確かに高いなぁ……」

『でもこの形いいなぁー』

「かっこいいな、これ!」

『でしょ?鉄平は分かってくれて良かったぁ!
でもさぁ、順平には分かってもらえないんだよなぁこの良さが』

「そうか、日向には難しいだろうなー」


二人が良いと言っているのはホームセンターの電動ドリル売場。
普通の女の子はまずホームセンターに寄らないが大工をしている家庭で育ってきたまきにとって、ここは可愛いアンティークショップと同じだった。

木吉もなんの疑問も持たずに一緒になって見入っている。
ここに日向が入ればすかさずツッコミが入るだろう。


「今は諦めるしかないな」

『うん………』


耳があれば垂れているだろうまきの頭を撫で手を引いてその場を後にする。


「そう落ち込むな、良い物やるから」

『良い物??』

「ほら、手出して」

『ん………………!…鉄平、これ……』

「あぁ、さっきのホームセンターに売ってたんだ」

『……くれるの?』

「あぁ、電動ドリルは高くて買ってやれなかったけどな」

『鉄平ありがとう!大好き!!』

「どういたしまして」


木吉がまきにプレゼントしたのは先程寄ったホームセンターのレジの横に置いてあったネジのストラップだ。
工具に夢中になっているまきにトイレに行くと告げてその帰りに購入した。

ネジにネジ穴が開いているというなんとも不思議な光景の物にまきは大興奮だ。
普通の女の子だったらまず喜ばないが、まきは普通ではなかった。


『あー楽しかった!』

「そうだな、俺も楽しかったぞ!」

『でも、あの電動ドリル欲しかったなー!』

「お金を貯めれば買えるさ」

『うん、俺頑張ってお金貯める!』

「おぅ、頑張れ!」


二人は大満足で帰っていった。
後日、その話を聞いた日向からは予想通りのツッコミが体育館に響き渡った。



‐終‐
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