書物‐弐‐

□堂々と
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ある日の誠凛高校体育館。
日向順平は一人自主練をしていた。
そばには彼女であるまきが日向の練習をじっと見ている。

しかし、バスケ部に所属していないまきは日向のシュート練習を見つめるだけで、他にする事がない。
故にかなり退屈していた。


(……………つまんない………)


人とは、一人で誰かを待っている時する事がないと退屈なものだ。
まきも例外ではなかった。
なんとなく日向を凝視していると、尻に目がいった。
女性より筋肉の多い男性は良い形の尻をしている事が多い。


(……俺より良い尻してんなチクショー……)


そう思い始めると、いてもたってもいられなかった。
音もなく近づき、手を伸ばす。


なでなでなで…。


「……………」


なでなでなで……。


「………………おい」

『んー?』

「何してんだ、お前」

『何って、見りゃ分かるじゃん。順平のお尻触ってんの』


まきはなんのためらいもなく、日向の尻を触り続ける。


「……なんで触ってんだよ…男の尻触って楽しいか?」

『うん、むっちゃ楽しい』

「………………………はぁぁ………」


こいつには愚問だったな、と諦める日向。


『まぁまぁ。俺にお構い無く、シュート練習を続けてくださいな、“順平ちゃん”』

「“ちゃん”付けで呼ぶなっつってんだろ、ダァホ!」

『えーー、なんでよーー。玲央だって呼んでたじゃん!』

「アイツは勝手にちゃん付けで呼んでんだよ!」


つーかなんで実渕を名前で呼んでんだよお前!、と言ったが見事にスルーされた。


『じゃ俺も勝手に呼んでいいじゃん。順平の彼女なんだからさぁ』

「っ!………ったく、こんな時ばかり彼女面してんじゃねーよ。
まきはいつだって俺の彼女だろうが」

『それ言ってて恥ずかしくないの?』

「うるせぇな!!誰の為に言ったと思ってんだよ、バカ!!」

『あはははは!鉄平!今の順平のノロケ聞いたぁ!?』

「はぁ!?」

「おー、バッチリ聞いたぞー」

「あぁ!!?」


ドアの向こうから木吉がひょっこりと顔を出した。
つーかお前先に帰ったんじゃねーのかよ!なんでまだいんだ!、と日向の放った言葉はこれまた見事にスルーされた。


「日向は意外とロマンチストなんだなぁ…うぐっ!」

「うるせぇよ、ダァホ」

「みぞ、おち……入ったぞ…」

『えっ、ちょっ鉄平!?順平!あんた何すんのさ!!』

「何って、バカにされたから一発かましてやっただけだろう…がっ!」

「えっ、日向!?」

「……ぁに、すんだよっ…」

『何って、鉄平をいじめたから一発かましてやったんでしょうが』


木吉に放ったみぞおちパンチが日向にも飛んできた。
しかもその威力はそこいらの女子よりかなり強い。


「お前っ………木吉にだけやけに優しいじゃねーかよ…。
まさか木吉と付き合ってんのか!?」

『んなわけあるかぁ!!』

「ぐふぉ!!!」

「ひゅっ、日向っ!!」


日向の顔に怒りの右ストレートが繰り出された。
あまりの威力に木吉は驚いて日向のもとに駆け寄る。


『頭の硬いあんたに分かりやすく言ってあげる。
俺はね、あんた以外に付き合った男なんていないし、これからもないって思ってんの!
鉄平は昔からの幼馴染みなだけで何にもないの!
あんただってその事分かってんでしょ?
それなのに、何?彼女である俺の事疑ってんの?え?どうなのよ順平さんよぉ!』

「…誠に申し訳ありませんでしたぁぁ………」


日向の人生でもっとも綺麗な土下座。
それを見ていた木吉から、綺麗な土下座だな日向、なんてはっきり聞こえたがここはあえてスルーする。
答えたら色んな意味で後々面倒な気がしたから。


『分かればよろしい。あとでマシバ奢ってよね、もちろん鉄平の分も!』

「…………日向もまきの前じゃ形無しだな」

「うるせぇよ」

『……ところで練習いつまでやるの?』

「あぁ、そろそろ終わらせようと思ってたとこ」

『ふーん』

「ちょっと待ってろ」

『はーい』

「………なぁ、日向…一つ聞きたいんだが…」

「あ?」

「仲直りのちゅーしないのか?」

「あぁ!!?」

『…………ぶふっ!
……順平……………顔…真っ赤っ………ぐふっ…………ふっ、あははははは!!』

「お前笑いすぎだろ!どんだけ笑いの沸点低いんだよ!
あと木吉テメェ、デリカシー無さすぎだっつーの!俺達がいつキスしようと勝手だろーが!…つか、ちゅーとか言うな!」

「え、ちゅーって言わないか?」

『たまに言うー』

「そこは答えなくていいだろ!」

『えー、別に良くない?』

「良くない!聞いてるこっちが恥ずいんだよ!!おら!マシバ行くぞっ!」

「『はーい』」


いつもと変わらない日常風景。
日向はこの当たり前の日常が好きだった。
まきと木吉に言うと馬鹿にされかねないので黙ってはいるが。
拒絶をしないのがその証。
まきがそばにいて笑っているのも当たり前の事で、これからも大切にしていくと密かに心に誓っていた。
自分の大切な彼女であるまきを。


「……まき」

『ん?』

「………手」

『ん!』


ぎゅっ………。


「日向、俺も手繋いでいいか?」

「あぁ!?なんだよいきなり気持ちわりぃな!
嫌に決まってんだろうが!!」

「冗談だ、冗談」

「この野郎…」

『…………ぶふっ!』

「だからお前は笑いの沸点が低すぎだっつーの!!」

『だってさーっ』

「だってもヘチマもあるか!」

「え、ヘチマあるのか?」

「ねーよ!!」

『あっはっはっはっはっ!!』

「…………………もういいわ」

「二人とも仲良いな」

「そりゃどーも」



−終−

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