書物‐弐‐

□小さな幸せ
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『……………はぁ、全っっ然分かんない』


学校が終わり、そのまま探偵事務所に足を向けたまきは頭を抱えて悩んでいた。
原因は目の前にある数学の宿題で出されたプリントだった。
最初のうちは授業で習っていたこともあり、すんなりと問題を解いていた。
しかし、半分を過ぎたあたりから段々分からなくなっていったのだ。


「ゔーー……ぐぬぬぬぬぬ……」


まきの向かいには弥子が座って同じように頭を悩ませていた。


『弥子は何やってんの?』

「科学」

『あー……ご愁傷様』

「え、ちょっと!見捨てないでー!!」

『無理。今俺も自分の宿題で手いっぱいだから』

「…そうだよね〜」


はぁー…自力で何とかするか……、と弥子は呟いて再びプリントとにらめっこを始めた。
俺も問題を解こうとしたが…頭が上手く働いてくれない。
ふと恋人のネウロの方を振り向いてみる。
彼は事件の資料を見て(ハッキングして)謎がないか探しているようだ。
なんか、忙しそう……解き方を教えてもらおうと思ったけど、諦めよう。


「…まき」

『ん?』

「その宿題とやらを持ってこちらに来い」

『…え?』

「解けなくて困っているのだろう?来い、我が輩が教えてやる」

『マジで!?やったー!!』


困っている俺に気づいたらしく、謎探しを中断して宿題を教えてくれると言った。
俺は大喜びでネウロの傍に駆け寄って、特等席である彼の膝に座りプリントを机の上に置く。
すると俺の体に腕を回して肩に顎を乗せてきた……可愛い!


「…で、どこから分からないのだ?」

『んとね、ここから分かんなくなった』

「フム、これか……貴様はあの便所コオロギよりはるかに頭が良い。
問題の基礎が分かっていれば自然と解けてくるはずだぞ?」

「誰が便所コオロギだ!!」

『基礎?』


ネウロは弥子の言葉をスルーして話を続ける。


「そうだ、よく思い出してみろまき」

『んーー……………………ぁ、分かった!』

「フッ、やれば出来るではないか。それでこそ我が輩のまきだ」

『ありがとうネウロ!』

「我が輩は何もしていない、貴様が一人で解いたのだ」

『でもやり方を教えてくれたでしょ?だからありがとう!』

「礼には及ばん。まきの為ならば東大とかいう大学の試験問題を容易く盗ってきてやるぞ?」

『いやいや盗んじゃダメでしょ!』


さらっと笑顔でとんでもないこと言ったのですぐさま止めさせる。


「ム、ダメなのか?」

『当たり前じゃん!っつか、そんな必要ないし』

「?何故だ」

「だって、大学なんか行かないし行こうとも思わない。
俺……将来はネウロの“お嫁さん”になるのが夢だもん!」

「!!」

「なんですとぉ!!?」


自分で問題を解くのを諦めてあかねちゃんに教えてもらってた弥子が目をかっ開いて勢いよく振り向いた。
あかねちゃんはホワイトボードに「お似合いだね!」とお祝いの言葉をくれた。
当のネウロは綺麗な緑色の瞳を見開いて驚いた顔をしている。


「我が輩の……花嫁……」

『うん』


俺はなんだか照れ臭くって、へへっ…、と笑って見せた。
すると、言葉の意味を理解したネウロが物凄く優しい笑顔で微笑んできた。


「全く、貴様には敵わないな…。我が輩の想像のつかない様なことをしてくる」

『くひひっ!』


ネウロは俺の体を少しずらして壊れ物を扱うように優しく抱きしめてくれた。
俺も彼の首に腕を回して抱き着いた。


『ネウロぉ、大好き!』

「我が輩もだ、愛しているぞ…まき…」


お互いに少しだけ体を離して、どちらともなくキスをした。


「う……嘘………二人ともいつからそーゆー関係だったの!?
ってか、なんで付き合ってる事言ってくれなかったのよ!!」

「貴様如きウジムシには関係ないだろう。故に言う必要はない」

「関係あるよ!まきはあたしの大事な友達なんだからね!!
アンタだけのものじゃないんだから!!!」

「チッ、ワラジムシの分際で喚くなやかましい」

『ごめんね弥子、ずっと黙ってて…なんか恥ずかしくってさ』

「良いよ良いよ気にしなくて!それよりおめでとう!」

『ありがと!』

「いつから付き合ってたの?」

『んとね、アむぐっ!』

「えっ、ちょっネウロ!!」

「煩い、貴様に教える義理はない」

「ケチッ!教えてくれたっていいじゃん!」

「断る」

『んーんーー』

「おぉ、すまんすまん……出かけるぞまき」

『ぷはっ!…出かけるってどこに?』


弥子に詳細を伝えようとしたら、ネウロに言葉を遮られた。
弥子は良いところで邪魔をされて抗議したが聞き入れてもらえなかった。
いい加減息苦しくなってきたので声を上げると、やっと離してくれた。



「付いてくれば分かる」

『ふーん』

「下僕1号、貴様はあかねと留守番していろ。我が輩達は少し出かけてくる」

「はいはい…」

『いってきまーす』

「いってらっしゃーい」


街に出るとネウロはまきのサイズに合った指輪とウエディングドレス見て回った。
それを知った吾代が泣き崩れたのはまた別のお話…。



−終−

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