書物‐弐‐
□よろしくどうぞ
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木の葉の里にある一軒の団子屋。
ワシは里にいる間は毎日と言っていいほど必ずそこへ行く。
ある娘に会いに行くために。
『あ、自来也様いらっしゃい!』
「おぉ、まき。今日も可愛いのぉ」
『やめてくださいよー、こんな大きい女に言う事じゃありませんよそれ。
もっと小柄で女の子らしくしてる子に言ってください』
「お主もワシより小柄だがのぉ」
『自来也様が大きすぎるからそういう幻覚が見えるんですよ』
「幻覚じゃないのにのぉ…」
『いつものお団子で良いですか?』
「頼む」
『はーい、お待ちください』
本当に可愛いのにのぉ…。
ワシは……密かに団子屋の看板娘、まきに好意を抱いていた。
こんな老いぼれが20以上離れたおなごに惹かれるとは…参ったのぉ。
誰にも言っていないのに、何故か綱手は知っていて……。
― ― ―
「お前、まきに惚れてるらしいじゃないか」
「ぶーっ!ゲホッゴホッ!」
「っ!!汚いぞジジイ!」
「煩いわババア!…それより……何故それを…」
「ふん、お前のまきを見る時の顔に書いてあるからな。
普段声をかける女どもとは態度が違いすぎる…大事にしたいんだろう?」
「……あぁ」
「…それを聞いて安心したよ。大事にしてやんな、あの子はお前とは違ってとても繊細なんだ。
もしまきを傷つけるような事があったら、ただじゃおかんぞ?」
「わーっとるわい」
「ん、分かればよろしい!」
― ― ―
全くあのお節介ババアめ…長く生きた女ってーのは、恐ろしいのぉ。
『……ま、自来也様!』
「!…なんだ?」
『そろそろお店閉めますけど…』
「…もうそんな時間か……年を取ると時間が過ぎるのは早いのぉーガハハハ!」
『ふふっ、変な人』
「!!」
不意に笑ったその笑顔で、ワシの心臓が脈打つ。
化粧をしないまきの笑顔は今まで見てきたどのおなごよりも可愛く、美しかった。
店を閉めた後はまきを家まで送る事にした。
おなご1人に段々と暗くなっていく夜道を歩かせるわけにはいかんしな、それに…もう少しこの子の笑顔を見ていたい。
『すみません、わざわざ送っていただいて』
「いやなに、夜道は何かと危ないからのぉ」
『俺、こう見えて結構強いんですよ?』
「でも複数に不意を突かれたらおしまいじゃ。
2人でいた方がまだ安心だ」
『…ありがとうございます』
「…好きなおなごを危険さらすのは嫌だからのぉ」
『……え?』
「ん?」
『今…好きって…』
「っ!!!」
しまった…つい口から出てしまった!!
恐る恐るまきを見ると、上から照らされていた街灯のせいで顔が陰っていたが、その頬は赤みを帯びていた。
『嬉しい…』
「…まき」
『俺も、前にお会いした時から自来也様が好きだったんです。
こんな男のように大きい俺にも優しく接してくださって……。
初めてなんです、男の人を好きになったの…』
「!?」
わ…ワシが…初恋…?
「嘘ぉぉぉ!!?」
『う、嘘じゃありません!本当なんで…っ!』
信じられん…こんなジジイに初めて惚れるなど…。
信じられんが……心臓が破裂しそうなほど嬉しいとは…!
ワシは嬉しさのあまり思わずまきを抱きしめた。
本気で好いたおなごが目の前におるのだ、これが抱きしめられずにいられるかっつーの!
『じ…自来也様…あのっ…』
「ん?あぁ、すまんすまん…つい嬉しくてのぉ」
頭を撫でて額に口付けると、先程より顔を赤くした。