書物‐弐‐
□まさかの日常
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パソコンで作業をしている妖一の膝を勝手に枕にしている時、小学校からの親友の志帆からメールが来た。
≪明日、もし暇だったら去年出来たショッピングモール行かない?≫
『妖一ぃ』
「なんだ?」
『明日、志帆とショッピングに行きたいんだけどいい?』
「あぁ、明日はグランドが使えねぇからな。いいぜ、行って来いよ」
『やったぁー!』
「ケケケ!」
俺は志帆にすぐ返信して明日の支度をし始めた。
最近練習が忙しくてまともに買い物なんて出来なかったから物凄く楽しみ!
鏡に向かって何を着ていくか吟味していると、妖一が後ろから抱きしめてきた。
『ん?なに?』
「なんかお前が鏡に向かっておめかししてっと違和感ありまくりだな」
『…何が言いたいの』
「馬子にも衣裳」
『なっ!!』
カチンときて殴り掛かったらアッサリ避けられた。そんな事自分が一番分かってるわ!!
『馬子にも衣裳で悪かったね』
「褒めてやったんだから喜べよ」
『喜べるか!』
“おめかし”という普段のコイツなら絶対に言わないワードを聞いた瞬間あえて無視すれば良かったものの…。
つい聞いてしまった先程の自分を呪ってやりたい。
『ぐぬぬ…』
「そんなスピードじゃ俺を殴れねぇぞ?」
『うっさい!アンタはあっちでデータまとめしてろ!』
「へいへい」
全く、S悪魔め…。気を取り直して、服を慎重に選んでいく。
翌日、駅で志帆と待ち合わせてショッピングモールに向かった。予想以上に広い店内に俺達は大はしゃぎ。
始めにすべての店を見て回り、気になった店を順々に物色していく。
モール内はセール期間らしく、平日の割には人が入っていた。
フードコートでランチを食べたり、ゲーセンで謎のキャラクターのぬいぐるみを一発で取ったり。
帰りは2人とも大荷物。お気に入りのブランドや気に入ったものを買ってたらつい…(笑)
「……おっもぉーい!」
『買いすぎでしょ』
「だって、セールで安くなってたし…次には無くなってるかもしれないじゃん?
それ考えたら買わずにはいられなかったんだもーん!」
『ま、気持ちは分からなくはないけどね』
「…つか、まきだってかなり買ったじゃん。重くないの?」
『ん?うん、全然』
「ウソ……ちょっと持たせて?…っ!!うぐっ!!!」
『……志帆、顔酷い…』
「はぁ…はぁ……あんたどんだけ怪力なの?その細身の体のどこに筋肉詰めてんのよ!」
『そりゃ、アメフト部でマネージャーやってるんだもの。意識しなくても鍛えられるでしょ』
「…あ、そうか……アタシも鍛えようかなー」
『えー、そのままがいいって』
他愛もない話をしながら歩いていると、後ろから男の人と女の人に話しかけられた。
「あのー、すみません」
「?…はい?」
「私達、芸能プロダクションRANRANの者なんですけども…」
『芸能?』
「はい。あまりにも可愛らしかったので声をかけさせてもらいました!」
『ふーん』
「えっ、嘘……RANRANの人なんですか!?すっごい!……え…今…アタシ達スカウトされてます?」
「はい!」
2人は笑顔で対応、志帆は本物のスカウトだと知った途端さっきまでの疲れはどこへやら。
大興奮だ(笑)
一方、俺は一切興味がなかったので話を聞くフリして今夜の晩ご飯のメニューはどうしようかなとか帰りは妖一に頼んで葉柱君を呼んでもらおうかなとか…。
スカウトを真面目にしているこの人達には悪いけど。
「そちらのお嬢さんもお友達といかがですか?」
『あ、俺は結構です』
「えーー!まき断っちゃうの!!?すっごい大手だよ!!」
『だって、俺アメフトがあるし、クリスマスボウル諦める訳にはいかないから』
「あ、そっか……彼氏とアンタの夢だもんね」
『うん』
「そんな事を言わずに…少しの間だけでも良いんですよ!」
『ごめんなさい、無理です』
「貴女のルックスなら絶対に有名になれますって!!」
『……』
……しつこいな。
志帆も止めようとしているけど、スカウトの2人はあれこれとなんかいろいろ言ってくる。
んー、困ったなぁ。
ブーーッ、ブーーッ…
『ん?』
どうしようかと考えあぐねていると、妖一からの着信…ナイスタイミング!!
『もしもし?』
≪オイまき、何糞スカウトマンなんかに手こずってやがる≫
『え、なんで知ってんの?』
≪防犯カメラハッキング≫
『あ……』
そうか、一部始終を見てたのか。
『じゃ、呑気に見てないで助けてよ』
≪…5分、いや3分待ってろ≫
『?分かった』
俺は妖一の言っている事がイマイチ分からず疑問に思いながらも携帯を切った。
「まき…彼氏、なんて?」
『3分待ってろだって。あそこのカメラで俺達の事見てたらしいよ?』
「え、嘘マジ?」
『マジ』
「はぁーー。流石まきの彼氏、やる事が人間離れしてるわ」