書物‐弐‐

□ほんの一時
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『………妖一』

「あ?」

『暇』

「…あっそ」

『……それだけ?』

「俺は忙しい」

『ぶー』

「……あと少しで終わる」

『ん』

泥門高校、今日アメフト部は校庭の整備とバスケ部が体育館で練習試合をしている為部活は必然的に中止。
他の人達は帰ってしまい、部室には俺と妖一しかいない。
妖一はパソコンとにらめっこしてデータをまとめている。
対して俺は今日出された宿題を黙々とやっている…のに暇だと言ってみたりしてそんなに進んでない。
だって、分かんないんだもん。


「…で、どこが分かんねぇんだよ」

『ん?ここ』


唇にシャーペンを乗せて遊んでたらパソコン作業を終わらせたらしく、いつの間にか隣に来ていた。
忙しいはずなのにわざわざ時間を作って俺の相手をしてくれる妖一ってすごく優しい。


「これぐれーの問題、すぐ解けんだろ」

『分かんない』

「分かろうとしてねぇだろ」

『うん』

「……」

『いったっ!』


本当の事を言っただけなのに頭をグーで殴られた。


『痛い!』

「オラ、さっさと問題解きやがれ。教えてやっから」

『はーい』


妖一はバカの俺でも分かりやすいように懇切丁寧に教えてくれる。
なんか、今まで授業を受けていたのがアホらしく思えてきた。
全部彼に教えてもらえば……って、無理か。忙しいもんね。


『…やっと終わったー!』

「ケケケ、テメーにしては飲み込みが早かったな」

『すっごく分かりやすかった!ありがとう妖一』

「あぁ、帰んぞ」

『うん!』


荷物をまとめて部室を出る。
…いつ見ても派手だなぁー……俺にはちっちゃいラスベガスに見える。


「まき」

『あ、待って!』


部室の外観を見ていたら軽く置いてかれた。
細くても筋肉がついて逞しい腕に抱き着くと手を握ってくれる。
自分より大きい手に握られると安心させられる。
普段は部活が忙しいからデートとか出来ないけど、帰りはいつも一緒にいてくれるから別に寂しくはない。
寂しくなったらすぐに手を差し伸べてくれるから。


「まき、今日泊まってけ」

『え、いいの?』

「あぁ」

『わーい!お泊まりだぁー!』

「ケケッ、ガキみてぇ」


こうやって、さりげなく俺の傍に寄り添ってくれるから寂しいと感じる暇がない。
こんなに幸せだと、なんか罰当たりそう(笑)


『アイス食べたい』

「じゃ、スーパーで買ってくか」

『よしっ!』


…罰すら当たる暇なさそう。
だって、この俺にだけ優しい悪魔がずっと傍にいてくれるから。



−終−

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