書物‐弐‐

□雨の喜び
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『……Ou my god…』


あまりのショックに英語でしゃべってしまった。
先程授業が終わって弥子とデザートを食べに行こうと話をして靴を履き替えている矢先、雨が降ってきた。


「え、嘘でしょ!?今日の天気予報晴れだったじゃん!!嘘つき!!」

『…弥子、天気予報ちゃんと聞いてなかったでしょ』

「え?」

『にわか雨が降るかもしれないって言ってたよ』

「マジで?…折り畳みすら持ってきてないよぉ〜……まきは持ってないの?」

『だからここで足止め食らってんの』

「あ、そっか」


学校に折り畳みを置き傘してると思って安心してたけど…先日持って帰ったのを思い出して意気消沈。
……走って帰ろうかな。


「…まき、今走って帰ろうとしたでしょ」

『!…なんで分かったの?』

「そうゆう目してた」

『マジ?』


あらら、顔に出てたのね…サーセン(笑)
外で待ってると風邪をひきそうなので俺と弥子は図書室に避難した。
雑談でもしていればそのうち止むだろうと思い2人で1時間近く話し込んだ。
しかし、雨は止むどころかさらに強くやってきていた。


「………ねぇ…まき…」

『うん…ヤバいねこれ…』


校庭がまるで海のようになっている。
これじゃ当分事務所に向かうどころか校内から出る事すらままならない。


「なんかお腹空いてきちゃった。購買でなんか買ってくるよ。まきは?」

『んー…じゃ、カスタードクリームパン』

「OK!」


弥子が出て行った図書室でぼーっと、窓の外を眺めた。


『……ネウロ、迎えに来てくれないかな………それはないか』


俺以外誰もいない部屋に響く雨音を聞いているとだんだん眠くなってきた。
どうせ購買でパンに食らいついているだろうから弥子はしばらく戻ってこないし。
机に伏せて目をつむる、すると徐々に意識が薄れていき、眠った。



― ― ―



「………ろ、起きろマキよ」

『ん……ぁ、ネウロ……』


心地の良い声に呼ばれて目を覚ますと、隣の席に座って机に肘をついてこちらを見ているネウロがいた。


「ようやく起きたか、待ちわびたぞマキ」

『あ…ごめん、いつからいたの?』

「貴様が眠ってからすぐだ」

『なんだ、起こしてくれればよかったのに…』


俺は伸びをしながらネウロに言った。…あ、雨弱くなってる。


「マキの寝顔があまりにも可愛いのでな、ずっと眺めていた」

『っ……バカ』

「フハハ」


コイツはさらっと恥ずかしい事を言ってくるから油断も隙も無い、悪い気はしないけど。


「さて、雨も弱くなってきた。帰るぞ、マキ」

『あ、うん……傘は?』

「持ってきている」

『ネウロ、傘持ってたんだ』

「貴様の為に買っておいたのだ」

『へー、優しいじゃん』

「貴様にだけだ」


ネウロは俺の頭を撫でながら微笑んだ。顔を赤くして見惚れていると触れるだけのキスをされた。


『!…誰かに見られたらどーすんの、ここ学校だよ?』

「良いではないか、貴様が我が輩のものである証明になる」

『恥ずかしいじゃん』

「マキはすぐ恥ずかしがるな。そんな貴様も我が輩は好きだぞ?」

『〜〜〜っ!』

「フハハ!」


ゆでだこの如く真っ赤な俺をそのままにネウロは昇降口の方に歩いて行った。
ちょっと遅れて俺も歩き出しネウロの後に続いて歩く。
外に出ると小雨ではあるけどまだ雨は降っていた。
ネウロが差した傘に入って帰路につく。


『…なんかこうしてると雨も悪くないな』

「そうか、なら雨の日は毎日迎えに来てやろう」

『良いけど…ネウロ、変に目立っちゃうよ?』

「ム、それは困る」

「でしょ?だから毎日はいいよ」


ありがとう、と言ってネウロの腕に抱き着いた。
雨の日は湿気でジメジメしてたり足元が濡れるからあまり好きじゃないけど、たまにこうして大好きな彼と一緒に帰るのは悪くない。


『ふふっ………………ん?………あ‶っ……』

「ん?」

『弥子の事すっかり忘れてた…』

「フハハハ!」


次の日弥子に事情を話して謝った。
案の定弥子は購買で俺の事を忘れてパンなどを夢中で食べていたらしい。
ネウロからのメールで我に返って学校の傘を借りて帰ったそうだ。
…濡れなくてよかったね(笑)



−終−

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