書物‐弐‐

□お前だから
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『……………………………一生の不覚……』

「そう拗ねるな、デートならいつでも出来るのだよ」

『……そうなんだけどさぁ。なんか腑に落ちないっつーか、スッキリしないっつーか…』

「気持ちは分からなくもない……が、今は風邪を治すのが最優先なのだよ」

『はーーい』


今日は真太郎と久々のデートだったのに…生憎風邪をひいてしまい、急きょ中止になった。
俺としたことが迂闊だったか…………クソッ。

彼は気にしないと行ってくれているが、天の邪鬼な自分にとってその言葉は逆効果だった。
気になりだしたらキリがない。


「思い詰めると逆に体に悪いのだよ。お粥を作ってきてやるから待っていろ」

『お粥やだー』

「何故だ?」

『だって、味ないじゃん。普通にご飯食べたいでーす』

「…何が食いたい」

『ご飯の上にいくらをたっぷりお願いするのだよ』

「分かった」


なんだかんだで真太郎は優しい。
一見、頭が固そうで融通の聞かない優等生に見えるかもしれないがそれは誤解だ。

あーだこーだ言いつつ、世話を焼いてくれるし、甘やかしてくれる。
そんな真太郎だから好きになった。


『……………………へっくしっ!』

「………もう少し可愛いげのあるくしゃみをするのだよ」

『……そんな無茶なっ…くしゅ!』

「ほら、食べるのだよ」

『いただきまーす……………むふっ、ふまい…』


緑間はまきのわがままを素直に受けとめる。
風邪をひいて弱っているというのも理由の一つだが、普段練習ばかりでなかなかデートに連れていけず、二人で並んで歩くのは自主練が終わってからの家まで帰るわずかな時間だけ。

まきはあまり表には出さないが、内心では寂しい思いをしているに違いない。
だから、今だけはたっぷり甘やかしてやろうと決めた。これが本心だ。


『ごちそうさま』

「お粗末様。まき、アイス食うか?」

『マジで?…食べる!』

「小さいので我慢するのだよ」

『はーい!』


好物のアイスが食えると聞いて少しばかり元気になったようだ。
これなら明日には治るだろう。
明日が土曜日でよかった、と緑間は安堵した。
部活に所属していないまきは土日は休みなので、ゆっくり休養がとれるからだ。


『んー!!風邪ひいてる時のアイスは格別だぁ』

「あまり食べ過ぎるなよ、体を冷やす」

『分かってる……今日はこのぐらいで我慢する』

「ん、良い子だ」

『へへっ』


自分より大きい手に頭を撫でられて少し照れ臭いが凄く嬉しい。
愛されてる感じがする。


「ほら、薬を呑んで寝るのだよ」

『ふふっ……真太郎、お母さんみたい』

「えっ、呼ん「黙れ高尾、貴様ではないのだよ」

『あれ、高尾いたんだ』

「え、ちょっ、酷くね?ねぇ真ちゃん、俺の扱い酷くね??
なんでまき、俺がいる事知らないの?ねぇ真ちゃん」

「あぁ、まきには伝えていなかったのだよ」

「ちょーひでぇ!!」

『つか高尾さ、何…その格好……』

「ん?
見りゃ分かんだろ、サ○エさんだよ」

『は?お母さんだったらさ、毎○かあ○んとか、あ○し○ちとかじゃない?
高尾のチョイス古くね?』

「何言ってんだよまき!サザ○さんは王道だぜ?」

『いやいや知らんし』

「いやいや知ってろし」

「……貴様は何をしに来たのだよ」

「そんなの決まってんじゃん、まきを元気づけようとこんな格好をしたんだよ」

『そっか…ありがと』

「どういたしまして」

「まきを寝かしつける。高尾はあっちに行っていろ」

「へーい、お大事になー」

『んー』


横になったまきに布団を被せ、触れるだけのキスをした。


「おやすみ」

『ん…おやすみ……』


早く良くなるのだよ…、緑間はボソッと呟き優しく頭を撫でる。
風邪が治ったら好きな所に連れて行こうと考えながらまきの寝顔を見つめた。

きっと、一日中振り回されるのだろうと呑気に考えながら。
自然と眠くなり、ベットに伏せながらまきのそばで眠ってしまった。


「………ったく、真ちゃんも風邪ひくぜ?」


まだサ○エさんの格好をしている高尾は緑間にタオルケットを掛けてやる。



― ― ―


「…………………っくしゅ!」

『え…真太郎、風邪?』

「分からないのだ……っしゅん!」

「そりゃー風邪ひくだろ」

『あ、高尾…よっ!』

「よっまき!元気になってよかったな」

『うん、お陰さまで』

「真ちゃんな、まきのそばで寝てたんだぜ?俺がタオルケット被せてたから大事には至らなかったけどさー」

『マジ?』

「マジよ、マジ」

『あちゃー、真太郎練習終わりだったもんね。
ご苦労様でした』

「別に構わないのだよ」

『帰ったら薬呑んでゆっくりしようね』



−終−

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