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□姉の襲来
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ーニジの場合ー


「ねえ、私のレイドスーツ見なかっーー」
「ッざっっけんなテメェ出て行け今すぐ!!」


かつかつとヒールの音も高らかに、勝手知ったる廊下を行進した末に辿り着いた弟の部屋、無遠慮に開け放った扉は瞬く間に鼻先で閉められた。
別にステルスモードで来たつもりはない。なんなら弟の名前を呼びながら、結構騒がしく歩いて来た。常ならば、ニジの高性能イヤフォンがとっくに騒音を捉えていて、「なんだようるせェな」くらいの歓迎はあるところだ。あるいは、それに気付かないくらい、何かに夢中だったとか。
二度とは開かない扉を背に、レイジュはぺろりと唇を舐めた。




電光石火のリアクションで姉を押し出し扉を乱暴に閉め錠を下ろしたさまはさすがデンゲキブルーと言うべきか。やれやれと振り向けば、こちらも猫のごとく俊敏に、シーツにくるまって部屋の片隅に縮こまっている。


「なによ今の!?」
「姉キだよ!クッソタイミングの悪ィ!!」
「あんた四つ子で全員男って言ってたじゃない!!」
「三つ上の姉だっつの!!」


ニジは苛々と爪を噛んだ。ようやく捕まえたのに、あと少しのところで邪魔が入った。心も身体も、警戒心の強い猫をほぐすには時間がかかる。
いつもそうだ。
ナミがこちらの思い通りになったことなど、ただの一度だってありゃしない。


「……鍵」
「あ?」
「鍵くらい、ちゃんと先にかけといてよ。……はずかしい、じゃない」


照れを含んだ声音はシーツの中でくぐもっていて、ニジは聞き間違いかと首がもげる勢いで振り向いた。かろうじて見える額や、耳や、細い首のあたりは控えめに言っても真っ赤で、つられてニジの体温も急上昇する。


「っきゃ」
「お前が!煽ったんだからな!」


今までは手加減してやってたんだ。
いくらすばしこい猫だとて、ジェルマの王子が本気を出せばまな板の上の鯉も同じ。
生意気にわめいてばかりいたのに、急に可愛らしく恥じらうなんて、反則もいいところだ。


「〜〜レイジュッ!二百メートル以内に入ってくんなよっ!!」
「やぁねニジったら、どんだけ激しくするつもり?」


吠えるニジの牽制に存外大きな声で返事は返って来て、またかつかつと去って行くヒールの音にナミがほっとしたのも束の間、ゆでだこみたいな王子によってベッドに投げ戻された。
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