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□サニー・サイド・アップ
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「いやそれはマズイだろ」


かちゃかちゃと食器が擦れ合う音、遠慮なく大声で笑い合う声、いろんな食べ物の匂い、特にカレーが強い。おれとマリモが食ってるからだ。学食のカレーは安いのに美味い。


「ルフィがいなくて良かった。アイツに喋ったらトラ男に筒抜けだぞ」


自ら言ったことにぞっとして、ウソップはきょろきょろと辺りを見回した。テーブルの下まで覗くと、安心した様子でへし折ったフラグの代わりに箸を持つ。丁寧に骨を取った秋刀魚を白飯に乗せ、口に運ぶ。


「他の男と付き合ってる女が、元彼の部屋に泊まっちゃイカンだろ」
「言っとくが指一本触れてねェぞ……あ、嘘だ。熱があると思っておでこに触ったわ。それはノーカンとして、ちゃんとナミさんにベッドを譲って、おれはソファで寝ましたー」
「当たり前だろ!それよりなんでナミがお前んちに行くんだよ。トラ男と喧嘩でもしたのか?」
「おれが知りてェよ……何も聞けなかった気弱なおれを笑ってくれ」
「ハッ」
「本当に笑うとこじゃねェよこのクソマリモ」


二人に話したのは、せめてものおれの良心だ。このまま誰にも黙っていたら、ナミさんはずっとずっとおれの部屋にいてくれるような気がするけど、それが良くないことだってのはちゃんと分かってる。だってナミさんの彼氏はおれじゃないから。


でも、いつもつるむメンツの中で一番ローと仲がいいルフィのいない時を狙ったおれは、やっぱりずるい奴なのかもしれない。


「……で?トラ男には言わねェのか」
「何て言うんだ?お前の彼女、昨日の夜おれんちに泊まったんだぜって?」


わざと茶化して鼻で笑ったおれに、とっくにカレーを食い終わったマリモが呆れて溜め息を吐く。そんな顔すんなよ、一番困ってんのはおれなんだから。


「まあトラ男は大人だからそんなことにはならないと思うが、キャンパスが友人の血で染まるような事態は避けたい。アイツは医学部だからメスのひとつやふたつ常備してそうだし」
「ブラックジャックじゃねェんだから」
「とにかく!おれらは、もしトラ男にナミの居場所を聞かれても知らぬ存ぜぬを通すぞ。いいなゾロ、そういうことで」
「面倒は御免だ、お前らで解決しろよ」


冷たく突き放すようで、その実心配そうな視線を向ける友人たちに頷いて見せて、おれは冷めたカレーをかき込んだ。
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