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□サニー・サイド・アップ
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次の日の朝、おれが朝食の支度をする音で目を覚ましたナミさんに、おはようと言って体温計を渡す。37度ちょうど。微熱っちゃ微熱だけど、昨日よりずっと顔色はいい。


「食べられる?朝ごはん。無理しなくていいよ」
「……豪華。一人の時もこんな?」
「まさか。いつもはもっと簡単だよ。でもゆうべあんな美味そうにおれの料理を完食してくれたレディに、トーストとコーヒーだけって訳にいかないでしょ」


温野菜のサラダと、ハムとトマトのサンドイッチを交互に食べるナミさんに、綺麗な丸に焼けた目玉焼きと生姜入りの紅茶を出して、自分用にコーヒーの豆を挽く。面倒なようで実は好きな作業だ。
がりごり、がりごり。
壁の薄いアパートの隣や下の住人にはもしかしたら迷惑かも知れないが、なにも早朝や深夜に何時間も続く騒音でもあるまいし、許して欲しい。たとえ今怒鳴り込んで来たとしても、部屋にいる女神を見たら、きっとミルの音も祝福のラッパに聞こえるだろう。どうせ隣も下も住んでるのは若い男だ。
がりごり、がりごり。


目玉焼き、7割半熟で塩だけの片面焼きね。私の好きなやつ。
覚えてたんだねという呟きは、くすぐったいようにも呆れているようにも聞こえたので、がりごり音で聞こえなかったことにした。




「……いい?おれ大学行くけど、ナミさんは休むんだよ。またぶり返すかもしれないんだから、油断しないで寝てて。シャワーも勝手に使っていいから。新しいタオルは、」
「分かってる、洗濯機の横の棚でしょ。ちゃんと寝てるから」
「お昼は簡単なもんで悪いけど、冷蔵庫に入ってるから食ってね。米は昼前に炊けるようにしてあっから」
「ありがと、ごめんね」
「おれの服で良かったら適当にクローゼット漁って着てて。昨日寒くなかった?ブランケットもそこにあるよ。えーと、あと、今夜はバイト入ってんだけど、一回帰って来るから夕飯も心配しないでね。食べたいモンあったら連絡して。ごめんね、フケれない講義があってさ、そうだな、17時までには帰るから。あーあともし具合が悪くなったりしたら」
「ちゃんと連絡する。サンジ君、遅刻するよ」


笑いながら見送られる。
胸があたたかくなった。家に帰ったらナミさんがいるんだ。
いつまでだっていたらいい。
にやにやしながら歩いていると、マリモ野郎にチャリで追い抜かれざま、キモ、と吐き捨てられた。
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