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□マカロナージュに想いを込めて
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ハニーブロンドの長い前髪の陰で、サニー号の料理人は小さくくしゃみをした。


「あまーい、いい匂い」
「あれ、ナミさん。まだ起きてたの?何か飲む?」
「航海日誌を書いてたの。自分でやるからいいわ、作業中でしょ?」
「ごめんね、あ、お湯は沸いてるから」


お気に入りのカップを取り出したナミは、オーブンシートの上に行儀良く並んだまんまるの膨らみを見つけると、同じように目を丸くした。


「可愛い!明日のおやつ?」
「んにゃ、明後日かな?これからフィリングを入れるんだけど、その水分がゆっくり時間をかけて浸透して、しっとりした頃が食べ頃なんだ」
「へえ、時間がかかるのね。食べるのは一瞬なのに」


ホットミルクと迷ってから、ナミは紅茶を淹れた。ミルクと蜂蜜たっぷりの、久々の上陸でやっと手に入れたアッサム。
今食べられないんだ、残念、と恨めしげな瞳がマカロンを凝視する。飢え死に寸前で辿り着いた島で、仲間たちは胃袋の限界まで食べ物を詰め込んで、積載量ぎりぎりの食糧も船に積んだけれど、一流コック特製のデザートにはまだまだ飢えている。長い洋上生活において、日持ちしない材料から生まれる甘いお菓子は、陸を離れたあとの数日だけしか楽しめないご褒美なのだ。そんな視線に気付いて、サンジは苦笑する。


「おれが食べようと思ってたんだけど、良かったら一緒にどう?」
「わ、可愛いケーキ!でもサンジ君が自分用に、なんて珍しいわね」
「んー……おれ用、っつーか」


歯切れの悪い言葉とともに出てきた皿に乗っていたのはホールケーキ、といっても小さなものだったが、スライスされた苺が薔薇の形に並び、その上にチョコで出来た立体の蝶のようなデコレーションが飾られていた。溜め息が出るほど繊細で美しいそれは、とても後片付けの片手間に作られた夜食用には見えなかった。


「他の女の為に作った、って言ったら、ナミさんは許してくれるかな」


眉尻を下げて、へらりと笑ったサンジの口ぶりは軽かったけれど、どことなくわざとらしい。
スプーンでかき混ぜて、乳白色と黄金のベールを織り込んだ湖面が均一になるのを見届けてから、ナミは静かにカップを傾けた。
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