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□マカロナージュに想いを込めて
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こつこつ、と扉が叩かれる。
躊躇うような控えめなノックの音に一瞬小首を傾げたレイジュだったが、すぐに誰が訪ねて来たのか検討がついた。どうぞ、と声をかけると、ゆっくり開いた扉の向こう側、予想通りの人物がそばかすの浮いた頬を赤らめて立っていた。


「どうしたの、コゼット」
「あっあのっ……お寛ぎのところ申し訳ありませんレイジュ様!!あの、遅くなってしまったんですが……」
「……まあ」


可愛らしいピンク色の贈り物に、レイジュは小さく感嘆の声を上げた。




数日前ーー11月30日は、ヴィンスモーク・レイジュの誕生日だった。当日は任務で国にいなかったレイジュの為に、今宵の晩餐ではバースデーケーキが振舞われた。
しかし、それだけだ。王女の誕生日を祝うにしてはすこし寂しい。弟の王子たちの誕生日には国中をあげて盛り上がるのに。
それを羨ましいと思うほどレイジュは幼くはなかったし、昔からきちんと立場を弁えていて、不満を言って誰かを困らせたことはなかったのだけれど。




ーーねえおかあさま、おとうさまのようすがへんよ。さいきん、わたしのことをかまってくださらないの。


ーーおとうさまったら、うまれたおとうとたちにむちゅうだわ。わたしのこと、きらいになってしまったのかしら。


ーーおかあさま、ねえおかあさま!だいじょうぶ?おかあさま!!




「……ピンクにも色々あるのね」
「はい!レイジュ様の髪の色をイメージして、生地は食用色素で濃淡をつけまして。こちらはストロベリーパウダーを混ぜ込んであります。飽きが来ないように中身も色々と、フランボワーズに、こちらはガナッシュクリーム……先程ケーキを召し上がられたばかりですから、数日日持ちのするお菓子をと」


料理のこととなると俄然饒舌になる料理長の細やかな気配りに、レイジュは口元を綻ばせた。


「これ、今頂いてもいいかしら?」
「!勿論です!あ、では私、お茶をお持ちしますね!!」


コゼットが慌てて厨房へ戻るのをよそに、早速一つ目のマカロンが形の良い唇に吸い込まれていく。しっとりと甘く、爽やかな酸味が広がる。


いつだったか、あの子が作ってくれたのは、こんな風に綺麗な丸ではなくて。ひび割れて、固くて、でも甘かった。
母譲りの蜂蜜色の髪をした、小さなコックがしょんぼりうなだれていたのを思い出して、レイジュは笑った。
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