Book

□そしてまた日曜日、ハッピー夕ごはん
1ページ/2ページ

多めの油で揚げ焼きにしたナスが、じゅわっと音を立てながらたっぷりの漬け汁に浸かっていく。いつか何かで貰った、真っ白なホーロー容器にナスの紫と黄色がよく映えて、その出来栄えに一人頷く。油を吸ったとろとろのナスはそれだけでご馳走だけど、もっと味が染みて食べ頃になるまで我慢。


「さーて、この油が勿体無いから、何か炒め物でもするか」


買ったけど使ってないからあんたにあげるわ、と姉から送って寄越されたのは常備菜のレシピ本で、なるたけ節約と自炊を心掛けている私にはありがたいプレゼントだった。いつもだらだら過ごしてしまう日曜日の午後に、今週の夕餉とお弁当の中身を豊かにすべく一念発起して台所に立っているという訳だ。
狭いテーブルにたくさんのおかずが並ぶ光景はとても達成感がある。保存容器がホーローだったりプラスチックだったり、普通にお皿だったりバラバラなのはちょっとアレだけど、急に思い立って始めたことだから、まあ。


「鍋の火弱めとこ……え?今の何?」


今日と明日の夜の夕飯になる予定の肉じゃがの鍋を覗き込んでいると、玄関のドアにガン、と何かがぶつかったような音がした。おたまを置いておそるおそるドアスコープを覗くが、何もない。けれど確かな人の気配を感じて、チェーンはそのままに、思い切って鍵を外す。


「腹減った〜〜……」


見慣れた黒髪がへにゃりと萎れて、情けない声を出していた。




「びっくりさせないでよ!何かと思うじゃない!」
「いやー助かった!家に何もねェから買いに行こうとしたらいい匂いがして、そしたら急に腹が減って力が抜けちまってよー」


とりあえず与えたみかん三つで命を繋いだルフィが、さっきまで死にかけていたとは思えないほど快活に笑う。人並み外れて食べるくせにすぐお腹が空くのだから、燃費が悪いったらありゃしない。


「仕方ないわね……うちでごはん食べてく?丁度色々作ってたところだから。まだ18時にもなってないけど」
「いいのか〜!?あ、でもまさかお前」


口元に手を当てて青褪めるルフィをじとりと睨む。


「ごはん代三倍返しとか言わないわよ!どうせアンタ踏み倒すし」
「ありがとう、ナミ!!」


きらきらした笑顔には嫌味も響かない。
今週の食卓を賑わす筈だった作り置きも、置かれる暇もないまま消化されてしまいそうだけど、ま、いっか。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ