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□半日ランデヴー
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「……どうせならラストシーンまで観たかった」


広い背中に掴まりながら、ナミは恨み言を零す。まだ涙を湛えたままの瞳に映るのは、薄い青と淡い夕焼けがぼんやり混じり合う空と、ぽつぽつと明かりが灯り始めたドレスローザの街並み。少し冷たい風が髪を乱して、絵葉書のような景色の邪魔をする。


「フッフッフッ!悪かったな、急ぎの仕事だ。今度埋め合わせをする」
「今度じゃ、だめなのに……今日じゃなきゃだめだったのに」


雲に絶えず糸を引っ掛けながら、ドフラミンゴは首だけを後ろに回す。振り返った顔を隠すのは見慣れた形のサングラスだ。不貞腐れてしまったのか、ナミは目を合わさず背中に顔を埋めた。いつものふわふわじゃない、と乗り心地の悪さにしかめっ面をする。


「本当はショッピングにも行きたかったし、二人でディナーにも行きたかった」
「夕食はファミリーで揃ってとる約束だろ?」
「分かってるわよ……どのみち今日は無理だし。今夜は夜通しパーティだもの」


刻々と減りゆく二人きりの時間を惜しむように、ナミは背中に掴まる手にぎゅっと力を込めた。


「ね、楽しかった?」
「ああ」
「本当?まあ当然よね、このナミちゃんを数時間独り占めして楽しくない訳がないわ」


私からの誕生日プレゼントよ。


居丈高な台詞の割に声は頼りなくか細くて、再度振り返るとまた背中に勢い良く突っ伏された。お姫様は帰り道の間中、ご尊顔を拝ませてはくれないらしい。




ーー海賊を辞めてと言ったのは、力や身分に惹かれているからじゃない。若様と呼ばなかったのは、周りに国王だとバレないようにする為じゃない。


夕焼けに染まったのか、風になびく猫っ毛からはみ出た赤い耳を見つけて、ドフラミンゴは笑った。


「フフフッ、最高の誕生日だったぜ!」
「……むしろこれからが本番なんだけど」


ファミリーあげての馬鹿騒ぎの後、皆が疲れ果てて眠る頃。プレゼントの山をかき分けて、王様の寝室に夜這いをかけようと企むおてんばお姫様がいるとはつゆ知らず。
国王で海賊で王下七武海に戻ったドンキホーテ・ドフラミンゴは、忙しなくなり始めた夕方の城下町の上空にご機嫌な笑い声を響かせながら、大事な宝物を背中に乗せて飛んでいた。





2017年若様生誕記念
半日ランデヴー
(今は私だけのもの)





END
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