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□半日ランデヴー
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「ん〜〜……私、この『至福のふわふわパンケーキ情熱のドレスローザ風ベリーソースがけ』にする。ドフィは?」
「……何でもいい」
「あんまりお腹空いてないの?じゃあ、この看板メニューにしたら?」


やっとこ席に通されて、ドフラミンゴはぐったりと椅子にもたれた。長ったらしい名前の軽食にも興味が湧かないし、カラフルで可愛らしい雰囲気の内装に居心地の悪さを感じて、なるべく目立たないようにしていようとその巨躯を縮こませる。それでなくても行列には若い女ばかりで、中年のオッサンは浮きまくった。


「ここね、雑誌で見てずっと来たかったの!楽しみ!」


可愛い可愛いファミリーのお姫様の頼みだから、こだわりのファッションスタイルを捻じ曲げてまでお伴したのだ。ナミが喜ぶなら、まあ我慢しよう。
『至福のふわふわバターミルクパンケーキ』なる甘ったるい塊を珈琲で流し込みながら、ドフラミンゴは美味しそうにパンケーキを頬張るナミの頭を撫でた。




「チケット、大人2名で!」
「……おいナミ、なんで好き好んでこんな狭ェ所で映画観なきゃなんねェんだ」
「あ、ポップコーンは塩派?キャラメル派?」
「人の話を聞け!さっきパンケーキ食ったろ!!」
「じゃあ塩ね」


城に帰れば往年の名作映像電伝虫コレクションがずらりと並んでいる。スクリーンだって十分すぎる程の大きさだし、なにより他に客もいない。ドフィは邪魔になるから一番後ろの席ね、とぐいぐい押されて仕方なく席に着くも、ゆったりとした玉座に慣れた身としては非常に窮屈極まりなかった。
それにしても若者の胃袋は恐ろしい。




(……クソつまらねェ)


開始10分でヒロインが死んだ。意外性のある展開は良いとしても、お寒い演出に煩いだけの効果音、お涙頂戴シーンの連続に、『世界中が泣いた』の煽り文句の薄っぺらさにいっそ笑えてくる。
これでも多忙な国王にして闇のブローカー、女子供しか喜ばないような映画に割いている時間が勿体ない。
のだが。


「……ぐすっ……」


隣でナミが泣いている。
大きな瞳から雫がぽたぽたと、後から後から溢れて来て、時折鼻を啜りながら。


そんなんじゃポップコーンがもっとしょっぱくなっちまう。
ドフラミンゴが慌てて懐のハンカチを探っていると、胸ポケットに忍ばせていた携帯用電伝虫が震え出した。
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