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□半日ランデヴー
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「……七武海を辞めろ、だァ……?」


ドンキホーテ・ドフラミンゴに向かってそんな台詞を吐いたのは、その称号を剥奪する権利を持つ世界政府でもなければ、13年前の復讐を誓う死の外科医でもない。


「七武海をっていうか、海賊をっていうか。国王も一時休業で。とにかく普通の人になってほしいの」


幾つもの肩書きを持ち、幾つものゼロを従えた賞金額をその首に掛けられたこともある男に対して、ナミは少しも悪びれずにそう言い放った。


「ね、お願い……今日だけでいいから」


膝の上に乗ってこれでもかという上目遣いで、猫撫で声を地でいく可愛いおねだりに、今度は一体何を企んでいるのかとドフラミンゴは天を仰いだ。






「なんなんだこの格好は」
「ね、若さ、じゃなかったドフィ!こっちこっち!」


いつもは零れ落ちそうな胸を惜しげもなく見せつけた煽情的な服装ばかりするくせに、満面の笑みで男を手招きする今日のナミは、清楚で可憐なワンピースに包まれて、良い意味でその辺の町娘のようだ。対して誘われるままやれやれと足を運んだドフラミンゴは、一見すると誰だか分からない妙ちきりんな格好をしていた。


「この服誰のだ」
「ディアマンテに借りたの。サングラスはセニョールから。その帽子はグラディウスが是非若……ドフィにって。あとデリンジャーがハイヒール貸してくれるって言ってたけど、多分ドフィにはちっちゃいと思って断ったわ」
「そこじゃないだろ。それよりなんだこの行列は」


いつもの特徴的なサングラスも羽根コートも失って、ただの標準よりだいぶデカい人になったドフラミンゴは、胡散臭そうに並んでいる行列の先頭の方を見やる。どうやら人々は順繰りに煉瓦造りの小さな建物に吸い込まれて行くようだ。


「最近出来たカフェよ。パンケーキが美味しいんですって」
「パンケーキだァ?んなもん、わざわざ並ばなくても城に取り寄せればいいだろう。大体お前、さっき昼飯を食ったばかりだぜ」
「分かってないわねドフィ、わくわく待ちながら並ぶ時間も含めての楽しみじゃない。それにね、ティータイム間近になればこの3倍は行列ができるのよ」


冗談だろ、と眉を顰めるドフラミンゴをよそに、ナミは何を頼もうかと楽しそうに配られたメニューを眺めていた。
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