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□火曜日、ファンタスティック夕ごはん
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……つ、疲れた。
帰宅ラッシュの電車から押し出されるように降りて、改札を抜ける前によろよろとベンチに座り込む。水筒に僅かに残っていたお茶を飲み干して、ふうとひと息つく。
いつもならこんな日はスーパーにも寄らず、家にあるもので適当に済ますか、アパートにいる誰かにたかるところだけれど、今日は火曜日。
私はにんまり口元を緩めて、徒歩五分の道のりを元気に歩き出した。




「おーおかえりー」
「おう」
「遅ェよナミ、腹減った!!」
「おつかれナミさん、ごはん出来てるよ〜!じゃあ飯にすっか」
「ただいま、あ、ゾロもいる。全員でごはん食べるの久しぶりね」


火曜日の夜は105号室に集合。本職のコックさんがお店の定休日にまでわざわざ腕を振るってくれるこの日は、毎週の皆の楽しみだ。ゾロは仕事で来れないこともあるけれど、ルフィは絶対に火曜日に友達と約束を入れたりしない。


「ナミさん、悪ィけどこの皿お願い」
「カプレーゼ!美味しそう、今日はイタリアン?」
「そのつもりだったんだけど、マリモが白飯で煮物が食いてェとか言い出すから、大根の煮物とかもあって献立めちゃくちゃ」


作る側の都合っつうモンもちっとは考慮して欲しいよな、なんてサンジ君は肩を竦めるけれど、どんな献立にもさりげなく皆の好物を入れてくれているのを知っている。今日だって旬の魚を使ったアクアパッツァもあればローストビーフもあるし、ゾロが白米を要求することも予想していたのだろう、カルパッチョもごはんが進むように和風な仕上がり。テーブルの上には沢庵や明太子もスタンバイ済みだ。


「ほんと、休みの日にまでこんなご馳走作らなくていいのに」
「好きでやってんだからいいのさ。ナミさんがおれの料理を幸せそうに食べる姿なんてご褒美みたいなもんだし」
「やらせとけやらせとけ、包丁握ってないと落ち着かねェんだろ」
「ちょっ、猟奇殺人鬼みたいな言い回しやめて」
「うるせェお前らはもっと感謝して食え!おらルフィ!野菜も!!」


ゾロとウソップをどやしつけながら、ルフィの口が開くタイミングに上手く野菜を放り込みながら、私の前に新しいお皿を置きながら、まだ何か台所から美味しそうな匂いを漂わせて。
お店で働くよりもしかしたら忙しいかもしれない、サンジ君の火曜日。
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