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□そんなしあわせ
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「なんでだ!何が不満だ!?」


ドレスに靴、それに合う宝石や貴金属もたくさんある。新しいものが欲しければ、どんなに高価だろうとすぐに用意させる。勿論その為の金貨だって、いくらでも。
金銀財宝に囲まれていれば幸せなんじゃなかったのか。昔泥棒をやっていたという猫は、いつもの生意気な弁舌は何処へやら、ソファの上で本物の猫のごとくちんまりと丸まって黙りこくったままだ。
一流のシェフに作らせた菓子も、今まで部屋を飾ったことなどなかった花も、見向きもされず落ち込んでいる。


食べたくなければ残せばいい。煩わしければ振り払えばいい。なんでも思い通り、これまでそれが叶えられてきた人生だったので、ヨンジは怒りを通り越して困惑していた。


振り向かせるには、どうしたらいい?


「おい、何とか言え」
「…………」
「何も言わなきゃ分からないだろ!!」
「……すぐ怒る。少しは自分の頭で考えたらどうなの、王子様」


ようやく口を開いたかと思えば、この辛辣な物言いだ。ぎろ、と大きな瞳がこちらを睨む。可愛くない、いや、可愛いんだが、すごく、いつも。でも今はそういうことじゃない。
自分の頭で考えろと言われた手前、それ以上問い詰めることは出来なくなって、打つ手がなくなったヨンジは顔を紅潮させたまま、部屋を出て行ってしまった。




なんなんだ、あいつは。
確かに今回の任務は思ったより厄介で、予定より長くかかってしまったが、むしり取れるだけの報酬を持って帰って来たというのに。ナミがいないことで生じた心の空白を、身体を重ね合わせることで一刻も早く埋めようと思ったのに。
自室を出て数歩歩いてから、行き場のないことに気付いて立ち止まる。ここのところ、仕事以外でほとんどナミの傍を離れたことがなかったので、普段何をして過ごしていたのかすっかり忘れてしまった。
女でも抱けばこのもやもやが解消されるだろうかと考えて、すぐに首を振った。今更他の女で満足出来る訳もない。あの女でなければ駄目なのだ、非常に悔しいことに。


「……チッ」


なるべくなら頼りたくはない、けれど他の兄弟よりは随分マシだろう人物のもとへ、ヨンジは渋々足を進めた。
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