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□プレゼントを、君に 新旧七武海ver.
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『明日、誕生日なんだけど』


などとは口が裂けても言わない。
そうか、の一言で終わるのは目に見えてる。むしろリアクションを貰えれば良い方で、最近のナミはさながらマネキン人形に話しかける痛い人なのだ。元々口数の多くない男は、重要でないことは話さない。ともすれば重要なことすらも。


「……あれ、いないの、ミホーク」


何も聞いていないのだから二、三日以内には戻るのだろう。ナミはふわあとひとつ欠伸をすると、一人分の朝食を温めた。古びた城の無駄に大きな食卓の、隙間を少しでも埋めるようにばさばさと新聞を広げて斜め読みする。


行動を共にするようになってからは、男のいない朝が不安だった。こんな寂しい場所にひとり、やはり足手まといだと捨て置かれたのか、と。それでもミホークは必ず数日のうちに戻って来て、ナミを安心させた。長期に渡り城を空ける時は、いつもナミを伴った。


(そりゃ、航海士なんだから。長い船旅の時に連れてってくれなくちゃ、存在意義がないわ)


それ以上でもそれ以下でもない。孤高の剣士と年若き航海士、色々と下衆の勘ぐりを受けることはあるが、憧れより進んだ感情はきっと斬って捨てられるだけだろう。ミホークの邪魔になることは本意ではないのだ。




「あ、おかえりなさい。早かっ……なに、それ」


男が抱えていた包みを雑に投げると、ガシャガシャと耳障りな音と共に眩い光が溢れ出した。
金貨、宝石。王冠に指輪にネックレス。


「誕生日だと言ったろう」
「え、言っ……てないと思うけど」
「去年だ。こんな湿っぽいところで贈り物のひとつもなく過ごす誕生日は初めてだと」


淡々と男は言ってのける。財宝にも負けない、強い金の瞳で。


「年頃の娘に何を贈れば良いかなど検討もつかん。とりあえず海に出て思案に暮れていたところ、羽振りの良さそうな海賊船が通ったのでな」


それで沈めたと。
ナミはぽかんと口を開けたままだ。お祝いの言葉すら望めないと思っていたのだから。


「……なんだ、盗品では不服か」
「いやいやいや、私も元泥棒だし」


床に無造作に転がるお宝の時価総額も魅力的だけど。
……一年も前に零した呟きを、覚えていてくれたことの方が嬉しいなんて、どうかしてる。
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