Book

□プレゼントを、君に 新旧七武海ver.
2ページ/7ページ

ひらひら、ゆらゆら。
水かきのついた手から乱暴に投げ捨てられた写真台紙が、一枚、二枚と、海中をたゆたい沈んでゆく。


「ううむ、どいつもこいつもピンとこんわい」
「親分、さっきから何してるの?」
「うわっ、ナミ!?いつからそこにおったんじゃ!?」


青い肌をさらに青くして、ジンベエがわたわたと隠そうとしたものをさっと奪い取り、ナミは眉をひそめた。


「なにこれ、お見合い写真みたい」
「みたい、じゃなくてまさに見合い写真じゃ……」


膝に座る人魚の頭を優しく撫でて、ジンベエは溜め息を吐いた。
ナミはタイヨウの海賊団唯一の女性である。身寄りがなく、幼い頃からジンベエが保護者代わりだった。リュウグウ王国ではしらほし姫と並ぶほどの美貌と謳われる美しい人魚だが、負けん気が強い性格で、ジンベエの反対を押し切って海賊になったという経緯がある。


「お前も海賊なんぞやめて、早う身を固めて幸せに暮らせ。ほら、こんなに求婚者がきとるぞ」
「なあに、そういう時だけ。普段は子供扱いするくせに」
「もう十分大人じゃ、それにもうすぐ誕生日じゃろう。本当はプレゼント代わりに良い相手を紹介してやりたかったんじゃが……」


大事な娘みたいなもんじゃ、危険と隣り合わせの海賊暮らしより、頼れる男と穏やかな家庭を築いてもらいたい。
そう願う親心と、手元から離したくない気持ちに揺れるジンベエの葛藤を、聡い人魚はとっくのとうに見抜いている。


「……なら、いっそ親分が私をお嫁さんにしてくれたらいいじゃない」
「なっ!?」


鱗のようにきらきらした瞳に覗き込まれて、真っ青だった肌が今度は色相環の反対方向へ向かっていく。


「こ、子供が何を言うとるんじゃ!」
「さっきと言ってることが違うじゃないの」


後退りしたところを細腕に掴まれて、魚人族の中でも最高クラスの強さを誇る巨体が縮こまる。自分の顔の造作が良く出来ていることを承知のナミは、それを最大限効果的に使う。長い睫毛には憂いを、紅い唇には艶をのせて。


「ねえ、私、もっと大人になりたいの……」
「あ、……アラディーーーン!!!」


ーー腹心の友に助けを求める声で始まった追いかけっこは、それからしばらくの間続いたという。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ