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□by a hair
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鈍く光るリノリウムの上に、揃いの制服を纏った海兵たちの足音が響く。
強面で無骨な連中ばかりではなく、若い女性の姿も多い。自らの手で悪を討ち取る日を、あるいは海軍将校になるのを夢見て、男性に負けず劣らずの厳しい鍛錬を積む。そのかたわら上官の雑用もこなさねばならず、化粧っ気ひとつない海兵たちは、書類を抱えてあくせく動き回っていた。皆自分の仕事に手一杯で、擦れ違ったセーラーカラーの下に、みかんと風車をかたどった刺青が隠れているなんて思いもしない。


きびきびと、さも忙しそうに。ナミは鮮やかな髪を詰め込んだ制帽の下で、気取られないようにきょろきょろと目だけを動かしながら廊下を歩いていた。




『ここの海軍支部に、海賊から押収した宝がたくさん保管されているらしいわ』
『よし!行くぞみんな!!』
『真正面から行くバカがどこにいんだよ!こっそり潜入して盗み出すに決まってんだろ!!』


海賊ならば宝を追い求めるのは当然のこと、まして誰かのせいで異様にエンゲル計数が高い一味である。宝の奪取は死活問題なのだ。


『問題は誰が行くかだな』
『おれが行『ルフィは絶対ダメだ!』』
『あ、おれ「潜入してはいけない病」だった』
『ヨホホホ、さっきから行き交う海兵さん方を観察しておりますとね、若い女性の方が多いですね〜いい職場ですね〜〜!!』
『『『…………』』』


満場一致。


(ま、元泥棒ですからね)


確かに自分が適任だ。それは分かっていても、名もなき泥棒時代とは違うのだ。無駄に名を上げていく仲間たちのせいかはたまたセクシー過ぎる己の手配書のせいか、昔よりはずっと顔が売れてしまっている。


「ちょっと、あなた」


肩にぽんと手を置かれて、ぎくりと身を強張らせる。
なんで?もうバレた?そんな筈は、


「ちょうど良かった、この書類おつるさんの所に届けてくれないかしら?今、上の執務室にいらっしゃるから」
「は、」


ただの雑用の為に呼び止められたのだとホッとしかけて、ナミは思いっきり青褪めた。


(おつるさんって…”大参謀”の!?海軍中将じゃない!なんで本部の人間がこんなとこにいんのよ!!)
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