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□バーミリオン
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サンジ君は優しい。
優しくて、優し過ぎて、いつも自分を犠牲にしてしまう。
いつだったか、背後の敵に気付かなかった私を庇って、大事な手に怪我をさせてしまったことがあった。素直にごめんなさいとありがとうが言えなくて、なんで助けに来たあんたが怪我するのよと可愛くないことを零した私に、「ナミさんに怪我がなくて良かった」って。いつもみたいにへらりと笑ってたっけ。


「お前が代わりに来るのなら、サンジのことは諦めてもいい」


ビッグマムの娘との縁談で、自分を切り捨てる以外に何も選べない、優しい彼の代わりに。私が行くことで、全てを丸く収められるなら。
「何を馬鹿なことを」って、あなたはきっと怒るでしょうね。でも私だって、ただ生贄の仔羊になるつもりじゃないのよ?きっとルフィたちがあなたを助けてくれる。それまで、耐えればいいだけ。
大丈夫、大丈夫……今までだって、何度も危ない橋を渡って来たわ。仲間を助けるためだものーー


ーー娼婦にだってなってやるわ。




「……明日は早い。お前も早く寝ろ」


電気を消して、当然のように寝台の横に滑り込んで来たイチジに、ナミは息を飲む。サイドテーブルにことりと音を立てて置かれたのはサングラスだろうか、真っ暗な世界で耳をそばだてて身を固くしていたが、一向に動く気配が無い。


「………寝るの?」


余計なことだと思いつつ、ついそう訊いてしまった。


「お前は寝ないのか」
「いや、寝る、けど……一緒に?っていうのは、ちょっと」
「夫婦になるんだから寝所を共にして何が悪い」
「は、」


相手は選ばせてやる。
確かにそう言われた。
目の前に並ぶサンジ君の兄弟。そのうちの誰か。誰でも一緒だと思った。


「ふ、夫婦って何!?そんなの勝手にっ…!!」
「挙式まで楽しみに取って置こうと思ったが、花嫁はもう抱いて欲しいのか?」
「違ッ…!そういうことじゃなくて!」


サンジ君はあんな風に口の端を吊り上げて笑わないから。サンジ君はあんなに体格が良くないから。
誰でもいいと言いつつ、サンジ君の面影が一番強いイチジを選んだ。
どうせひと時抱かれるのなら、だ。
生涯の伴侶として、ではなく。
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