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□レディ・ウォッカとダービー・ダンス
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「私と同じくらい飲めなきゃ、話にならないわ」


そう言い放たれて、兄弟のうち三人は歓喜し、一人は項垂れた。当然自分たちも酒豪であるという意識があったし、なにより女の飲む量など知れていると高を括っていた。そして勿論三男は、彼女の飲みっぷりも、それに張り合える男の存在も心得ていたので、深く深く、肺から全ての空気を追い出すほどの溜め息を吐いたのだった。




「どんな男が好みだ?」


幼少の頃国を飛び出したっきり音沙汰の無い第三王子を迎えにやってきた。わざとらしい物言いで、そう尊大に告げた海遊国家の王子たちは、すぐに目的を綺麗さっぱり忘れた。
ナミの好みを知りたがり、あの手この手で口説き落とそうとするさまを面白がって、船長が宴にしよう、と笑った。


「おいルフィ、またお前はそうやって……敵か味方かもよく分からんうちに宴にしようとすんなよ!」
「にしし、だってサンジの兄弟なんだろ?ならいいじゃねェか!」
「サンジさん、よろしいのですか?何か因縁が有るのでは?」
「あ〜まァいいよ…なんかおれのことは忘れてるみたいだし……ナミさんに近付こうとするのは許せねェが、…アイツもいるし、大丈夫だろ」


巨大な電伝虫のような船から次々と運び出された各地の銘酒に、ナミの目は分かり易く輝いた。


「へぇ〜……これノースのお酒?美味しそうね」
「なかなか目が高いな。滅多に手に入らない逸品だ、二人が出会った記念に開けるとするか」
「どけよイチジ!ナミ見ろ、これは天竜人が特別に作らせた酒で、巷には出回らない代物だぞ!!」
「今ナミと話しているのはおれだぞ、ニジ」
「ナミ!!この酒はボーイン列島にしか育たない果物で作っ」
「「引っ込めヨンジ!!」」


始まった兄弟喧嘩は知らんぷり、周りを埋め尽くす瓶や酒樽に思わずにんまりする。どれも選び抜かれた最高級の品々、さてどれから開けようかーー


「あ」


ぐびぐびぐびぐびっ。


手始めにと選んだ酒を掠め取った無骨な手は、あっという間に酒瓶を真っ逆さまに掲げて、物足りなげに振ってみせる。雫の一滴すら零れてはこない。


「いい酒だ。量がありゃ完璧だ」


隻眼の剣士が濡れた口元を歪めた。
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