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□指先の熱で溶かして
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「……ナミ………」
「…え……ロー……?」
ずっとずっと、会いたかった。
ずっとずっと、想っていた。
(ーーその人は、)(ソイツは、)
長い冬、雪解けを待ち侘びて。動き出した筈の秒針がまた、かちりと凍った。
「え〜っ!?それでナミさん、そのまま別れちゃったの?」
親友が珍しく出した大声に眉を顰めて、ずず、と残り少ないジュースを啜る。仲間内にもあまり聞かれたくない話だけれど、幸いにしてここはカラオケルーム。ウソップの軽快なラップに合わせて陽気に騒いでいる面々には、聞こえることもないだろう。
「その人ってあの、ナミさんがずっと片想いしてるっていう」
「そう…もう、2年は会ってないけど」
「何か話せば良かったのに…」
「女連れだったの」
ナミは勢い良くテーブルに突っ伏した。タッチパネルなら大惨事だったが、真下にあったのは今や懐かしい分厚い歌本だったので、綺麗なおでこは流血騒ぎにならずに済んだ。
「すっごい美人で…しかもこう、手握ってたもん…もう絶望よ……何も言えないまま、私はルフィに引っ張られて来ちゃったし……」
カラオケの一室の片隅にもくもくと立ち込めた暗雲の下で、慰める言葉を見つけられずにおろおろするビビは、とりあえず鞄から折り畳み傘を取り出した。
「……どうしろと」
「や、なんか、雨が降りそうかなって」
「…大丈夫、今夜の降水確率は0パーセントよ。心は暴風雨だけど」
もうヤケよ、やっぱり飲むわと自分のコップを空にして、サンジのカクテルとゾロのビールを続けざまに飲み干したナミは、顰蹙と喝采を浴びながらウソップのマイクを奪い取って歌い出した。
「良かったの?」
「何がだ」
「さっきの子。何か話したそうだったわ、お互いに」
「…ただの幼馴染だ」
「………そう?」
ワイングラスから離れた唇が、露骨に嫌そうな顔を見てくすりと笑う。とてもそうは見えないけれど、と言外に匂わす意味ありげな視線から逃れるように、ローは一息に酒を飲み干した。
「おれの話はいい、お前がおれに話があると連れ出したんだろう」
カウンターにグラスを置いて、ロビンは男を真っ直ぐに見つめた。
「ーー私、やっぱり…好きみたいなの」