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□砂糖漬け人形と真夜中のお茶会
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「あ〜〜〜〜〜〜…………」


広い浴室に、男の脱力しきった声が反響する。いい加減甘い匂いには食傷気味だったナミは、フローラルなバスボムを手当たり次第ぶちこもうとするシャンクスを制止して、お気に入りの柑橘系のものを選んで入れた。
身体中からナミの匂いがする、とご機嫌なシャンクスは、もう洗ったからいい、と固辞するナミをつかまえて、器用に片手で洗っていく。丁寧に、丁寧に。
放っておくとシャンプーまでしそうな勢いだったので、逃げるようにバスルームから転がり出ると、楽しそうに追いかけて来た男はいつものように白い肌に真珠入りのクリームを塗りこんでいく。ワノ国で手に入れたというつげ櫛で髪を梳かされて、ヘアオイルを揉み込まれて、実用性を無視したとしか考えられない装飾の新しい夜着を着せられて、ようやくおしまい。


だと、いいのだが。


「あー!ナミは本当に可愛いなぁ」


眠い、もう遅い、疲れてる。そんな拒否反応ごと容易く押し倒される。ミルクチョコレートが洋酒を閉じ込めてウィスキーボンボンになるように、甘いだけの空間が次第に熱を孕み、酔わされていく。




人形姫。
そんな風に揶揄する声があることは知っている。
磨かれて飾り立てられて、グラブジャムンもびっくりの、吐き気を催す程の糖度で溺愛されて。血管の中にまで、赤くて甘い苺のシロップが流れているみたい。やはりそれなりに疲れているのだろう、珍しく早目に解放してくれた男の寝顔を見ながら、とりとめもなくそんなことを思う。


ーー本当に人形だったら良かったのに。


そうしたら、予定通りに帰って来たためしのない男の無事を祈りながら、眠れぬ夜を過ごすこともないだろう。この海に君臨する四皇といえど、否、だからこそ、いつ果てるとも知れない命。そこに寄り添える今宵、


「……ばか、シャンクス。ほんとにあんたってひとは、心配ばっかりさせて」


隣で男の胸が安らかに上下するだけで、それは涙を落とすほどの幸福なのだ。




最愛の人と指を絡ませて眠る夜くらい、甘い、甘い夢を見たっていいでしょう?





砂糖漬け人形と真夜中のお茶会
(しょっぱいのは涙だけで結構)





END
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