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□砂糖漬け人形と真夜中のお茶会
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長い睫毛に縁取られた、猫のように大きな瞳は、今はほとんど閉じられている。眠いのと、不機嫌なので。


「……なんで、今なのよ」
「そりゃ、今まさにそういう気分だからだろ」
「はぁーー、ホント、あんたって人は……」


日付はもう明日へと片足突っ込む頃合いだというのに、この男は時計の針などに縛られない。寝たい時に寝るし、飲みたい時に飲む。真夜中でも構わず、王様の晩餐会と見紛うばかりの大量のお菓子を並べ出す。
どうしたのよと聞けば、ビッグマムにちょっと貰った、と朗らかな回答が返って来た。『ちょっと』どころではないし、『貰った』のニュアンスも怪しい。


(あとで面倒なことにならなきゃいいけど)


トラブル処理班筆頭のベックマンが頭を抱えるのが目に浮かぶ。とはいえ、それはもう起きてしまったことで、どのみち四皇同士の諍いなどナミには手に負えない案件なのだから、部屋中に漂う甘い香りに騒ぎ出した小腹を黙らせるためにも、ここは証拠隠滅に協力するしかなさそうだ。こんな夜中に、カロリーが、などとぶつくさ言いながら、手はもうシュークリームを掴んでいる。さくさくのシュー生地にクレームシャンティとパティシェール、二層の幸福が折り重なって、口の中でバニラの香り高くほどけてゆく。罪悪感と一緒に喉元から胃へと、あっと言う間のジェットコースター・スイート・アドベンチャー。


「それ、美味そうだな」


唇の端についていたほんの僅かなクリームを見逃さず、ゆっくり舐め取ったシャンクスはんんー、美味ェ、と満足げに唸った。キスの距離はお菓子の香りでは誤魔化し切れない鉄の匂いを暴き出す。よく見ると、服にも点々と血飛沫が付いている。


「お土産は嬉しいんだけど、こんな豪華なお菓子はできればティータイムにゆっくり頂きたいし、お肌の為にも早く寝たいの私。というわけでおやすみなさい」
「なんだよー折角ナミが喜ぶと思って盗っ……取ってきたのになぁ」


ナイトドレスの紐をするすると引っ張る悪い手をぺしりと叩いて、シャワーを浴びるように促す。世界にその名を轟かす大海賊は、ナミと一緒じゃなきゃ嫌だと子供みたいな我が儘を言い出したので、ナミは不本意ながらこの晩二度目のバスタイムを過ごすことになった。
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