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□スミレの涙
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ある日、ドフラミンゴが若い女を連れて来た。そしてその世話を、私に命じた。
海賊だというその女性に男が酷く執着していることは、能力を使って覗き見するまでも無く、直ぐに分かった。


「……おはよう、ヴィオラ」
「おはよう、ナミ。少しは眠れた?」
「ん……眠れたっていうか、気絶してたみたいな感じ」


ここに来てから、時間の感覚が分からなくなっちゃって。無理に笑顔を作ってみせたナミは、若く美しい女性だった。その意志の強そうな瞳は、何処となく姉のスカーレットを彷彿とさせた。


「良かったら、後で少し庭を散歩する?今、温室の花が見頃なの」
「でも……私を連れ回して、怒られたりしない?……あの男に」
「大丈夫、王宮内は私と一緒なら歩いて構わないと言われているし、私はあなたの世話係だから」


最初こそ警戒して近寄らせてもくれなかったナミは、私の境遇を理解してからはよく懐いてくれた。それは私も同じで、まるで姪っ子がもう一人出来たみたいで、二人きりの時、彼女にはコードネームではなく本名を呼ばせた。


「昔はお抱えの庭師がたくさんいてね、もっともっと色々な花が咲いていたの。今は私がひっそり世話をしているだけだから、お粗末だけど」
「充分、綺麗だわ……生きてる、って感じがするもの」


多少やつれてはいるが、ナミの横顔は美しかった。季節の花も恥じらい隠れてしまうくらいに、若く、瑞々しく。
こういう女性だから、あの男に愛されるのだろうかーーー


「ヴィオラ、………わたし、」


儚い声が意識を現実に引き摺り戻す。
今、何を考えた?愛されているナミに嫉妬した?馬鹿な。望まない愛に縛り付けられて、彼女はこんなにも苦しんでいるのに。


「みんな、に………、」


それ以上は嗚咽に遮られて、言葉にならなかった。敢えて言わなかったのかもしれない。仲間の元に戻りたいと、泣いて頼んだところで、私がそれを叶えてあげることは出来ないのだから。そしてその望みが万一叶う日が来たとしても、彼女は私を放って逃げられはしないだろう。


肩を震わせるナミを、そっと抱き締めることしか出来ない。
あの男の傍にいるには、この子は優し過ぎる。
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