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□女神の祝福
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もうすぐ、誕生日がやってくる。


幼い頃は、父親からプレゼントを貰って、母親がケーキを焼いて、妹と一緒にはしゃいで…そんなありふれた、幸せな光景だった、ような気がする。いつからかーーそんな自問をするまでもなく、家族を、故郷を失ったあの時からーー、誕生日なんて、祝福されない人生でただ消耗されるカレンダーの一ページに過ぎなかった。家族の笑顔を思い出しては胸が痛む、いっそ忌々しい呪われた記念日。


自分の海賊団を持ち、戦闘と医療行為を往復する日々で、誕生日パーティーをやろう、などと言い出したのは一体誰だったか。おれはいい、なんて制止の言葉が通るはずもなく、毎年どんどん豪華になる宴。まあそれがあいつらのストレス緩和に役立つなら、と渋々了承していた。つもりだった。


今年の誕生日、あいつらは傍にいない。


それが寂しい、と思うくらいには、おれは誕生日を楽しみにしていたのかもしれない。




「………つまらねェ話を聞かせた。忘れてくれ」


少し恥ずかしそうに帽子を深く被り直す姿に、母性とも同情ともつかない妙な情愛が湧いたのかもしれない。皺の寄った額に突然ちゅ、と音を立てて降ってきた可愛らしいキスに、ローの目が見開かれたのを見て、ナミの方が真っ赤になってしまった。


「……仲間の代わりには、なれないと思うけど。今年は、私、たちが祝ってあげるわよ」


きっとサンジ君がとびきりのケーキを焼くし。ブルックは素敵な音楽を奏でてくれるし。ルフィだって、あんたが誕生日だって知ったら、お肉のひとつくらい分けてくれるわよ。
てかそんな大事な日、もっと早く言いなさいよ。照れ隠しに、矢継ぎ早に話すナミに、ローはフッと笑った。それは、初めて見せる柔らかな笑みで。


「……どうせなら、こっちに貰う」


唇と唇が優しく触れ合う感触に、今度はナミが驚く番だったけれど。
まあいいか、と思えるくらいに男の纏う空気が穏やかになっていたので、抱きしめてあげられなかったあの男の子の代わりに、そっと背中に手を回した。


きっと誕生日は、仏頂面の外科医ですら思わず呆れて笑ってしまうような、派手で、盛大で、騒々しいパーティーになるはずだ。





2016年ロー生誕記念
女神の祝福
(寂しさも吹き飛ぶような夜にしよう)





END
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