Book
□女神の祝福
1ページ/2ページ
小さな男の子が泣いている。
何故か視界はモノクロで、何の音も聞こえてこない。それでも遠目に少年の肩が小刻みに震える様子から、泣いているのだろう、とぼんやり思った。どうしてかは分からないけど、抱きしめてあげなければ、とも。
手を伸ばして、はやく。
「……………ゆめ?」
伸ばした右手は空を掴んだ。左手にしっかり握り締めた布団の感触がなければ、きっと夢の続きだと思っただろう。辺りはモノクロの世界を引き摺っていて、ランプの小さな光、ごく淡いオレンジに自らの手が浮かんでいる。
枕元の時計を見ると2時近い。ほとんどの仲間が寝静まっている頃だ。
(変な時間に目が覚めちゃったわ)
妙に心に引っかかる夢を見たせいだろうか、なんだかすっかり目が冴えてしまった。なんとか再び眠ろうと、布団を頭から被ったり、ごろごろと寝返りをうってみたりするものの、結局寝付くことが出来ずに諦めてむく、と起き上がる。キッチンでお水を一杯貰ってこようか。そしたら落ち着くかも。
隣で小さな寝息を立てるロビンを起こさないよう、ナミは静かに静かに部屋を出た。
「……あ、」
群青に染まる空に月が滲む。おぼろげな月光に照らされた甲板に、人影があるのに気付く。座り込んではいるけれど、眠っている訳ではなさそうだ。
「眠れないの?」
気怠げに顔を上げた男は、何の躊躇いもなくパーソナルスペースに滑り込んできた猫に気を悪くした風でもなく、むしろ身体を少しずらして、ナミの為に場所を作った。
「………あいつらのことを考えていた」
ぞんざいだが懐かしさのこもった、複数形で呼ばれたその人たちは、ローの仲間のことを指すのだろう。同盟相手の船に単身乗り込んできたくせに、真夜中仲間が恋しくなって眠れないなんて、可愛いところあるじゃない。
なんとなくしか知らない彼のことを、今なら教えてもらえるかもしれないと思って、ナミが話の先をせがむと、ローは少し黙って考えるような素振りを見せた後、ぽつりぽつりと話し始めた。