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□within range
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「手配書が気に入ったならやるよ。残念だけどあたしは仕事が立て込んでて、お前の相手ばかりしてられなくてね」
「オイオイつれねェなァ、あんたが忙しいこた重々承知の上だぜ。だからさっきから大人しく窓際の隅っこで丸まってんじゃねェか」


たとえ言葉通り丸まっていたとしても、そう広くない部屋で男の存在は邪魔以外の何物でもないのだ。
迷惑そうな視線もなんのその、また数枚、手配書が机の上に並べられる。トランプのカードを配るように。


「なァおつるさん。あんたへの日頃の御礼代わりに、コイツらの首を取って来たらさ、」


麦わらの一味。
おそらく近い将来、海軍にとってーー世界にとって、脅威となり得る、まだ若い青年たち。


「ーー代わりに一匹、猫を飼うのを許してくれるか?」


その手には、机に乗らなかった最後のカード。


「……あたしが止めたところで、お前が大人しく言うことを聞くとは思えないけどね」
「フッフッフッ!!だよなァ、流石によく分かってる」


決して弱くはない札も、”ジョーカー”に狙われて無事でいられるとは思えない。王下七武海が一海賊を狩るのを止める理由もない。それがこの海の正義だから。
そんな女将校の思いを知ってか知らずか、機嫌良く去っていこうとする男が、そうだ、と思い出したように振り向いた。


「海楼石の手錠を貸してくれよ、丁度切らしててな。後で届けさせてくれ」
「……あの子は、能力者ではない筈だよ」
「分かってるさ。戒めは強固であるに越したことはないだろう?」
「お前だって、触れないじゃないか」
「本気で遊んだらすぐ壊れちまいそうだからな、それくらいで丁度いいのさ」


窓から飛び降りる寸前、ドフラミンゴはもう一度だけ振り向いて、更に口の端を吊り上げた。


「ーーあァ、鍵は要らねェよ。当分外す予定はないからな」




ひらひらと舞い落ちた数枚の羽根を、持ち主が消えた窓から再び風に乗せる。


「……あんた、厄介なやつに目を付けられたねえ」


意志の強そうな瞳が屈辱に歪む日は、遠からず現実となる。ようやく静寂を取り戻した部屋で、つるはまた深い溜め息を吐いて、手配書の女を眺めた。





within range
(逃げるのは、不可能)





END
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