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□within range
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野良にしとくにゃ勿体ねェなァ、と。


勝手に上がり込んだ執務室で、手慰みにぺらぺらとめくっていた手配書の束が動きを止める。その中の一枚をしげしげ眺めた末に零れた呟きに、部屋の主が億劫げに顔を上げた。


「何か言ったかい」
「いや……コイツか?話題のルーキー」


長い指につまみ出された紙が、今まさに読んでいる最中の報告書の上に邪魔するように飛んで来たので、つるは仕方なくそれを手に取った。


「モンキー・D……ガープの孫ってのは本当みたいだな」
「ああ、そうだよ。厄介なことにね」


へェ、と口元に三日月の笑みを浮かべたドフラミンゴに、つるは溜め息を漏らす。人を馬鹿にしたような笑みはいつものことだが、そこに滲んだ一種の高揚みたいなものを容易に読み取れるくらいには長い付き合いだ。
どうせ邪魔をされるなら、と机にペンを置き、長時間のデスクワークで凝り固まった肩をぐりぐりと揉んだ。外は新緑の季節で、漏れ入る光は柔らかくあたたかい。休憩ついでに部屋の空気も入れ替えたいところだけれど、なにせ窓の前には巨大な男がピンクの羽根をわさわさ揺らして、自分の部屋みたいにお行儀悪くくつろいでいるので、それは諦めることにした。


「この女か。その一味の、噂の凄腕航海士ってのは」


ひらり、若い海賊の満面の笑みの上に覆い被さったのは、これまたうら若き乙女の肖像である。なかなかに挑発的なアングルで、海賊の手配書というよりは成人雑誌の表紙みたいだった。
船長は二の次で、本当に興味があるのはこちらの方なのだろう。鈍く光るサングラスの奥で、夜叉が嬉しそうに唸るのを、つるは感じたような気がした。


「ああ、”泥棒猫”のことかい。なんでも、自在に天候を操れると聞いているよ」
「そいつが本当なら魅力的な話だな。気も強そうで、また随分な上玉だ」
「あたしの若い頃に似ているね」
「ーーげ、じゃあこの女も、将来おつるさんみてェな婆ァになんのかよ」


至極真面目な顔の老婆が言い放った冗談みたいな台詞に、ドフラミンゴは一瞬顔をしかめてから、けらけらと笑った。
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