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□王道ロマンス?
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塔の窓はさほど大きくはなかったが、ナミ改めお姫様が光や風に触れるには十分なサイズだった。ところが、規格外の客には少々小さかったようで、窮屈そうにぐい、と身体を折り曲げた侵入者によって窓は覆われ、世界は一瞬暗転した。


(ーーコイツ……!)


「はじめましてだな、お姫様。おれのことを知ってるか?」




王下七武海、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
白日の下、素顔も感情も仕舞い込むようなサングラスがぎらりと輝く。露わなのは口元だけで、三日月のごとく吊上がったそれが、余計に恐怖を煽った。


(…落ち着くのよ、ナミ。相手は初対面だと言っているけど、お姫様ならなんて返事を)


彼女の口から直接聞いたのだ。この国を巡る戦いに、武器を送り込んでいる闇のブローカーの存在を。深窓の姫君は外に出ない代わりに勉強家で、絶えず動き続ける世界情勢にも敏感だった。
となれば、答えは。


「……お初にお目にかかります。ドレスローザ王国の、ドンキホーテ・ドフラミンゴ国王陛下とお見受け致します」


震えるな、上擦るな、声。
一度影武者を引き受けたからには、最後まで演じ切る。ナミは凛とした眼差しで男を真っ直ぐ見据えた。怯えを見せてはいけない。
遠い砂の王国の、友を思い出す。彼女もまた、自国に燻る闇を暴こうと、勇敢に戦う王女だった。


「そう怖がるな。大国が競って手に入れようとするお姫様がどんなモンか、ちょっと見に来ただけだ」


噂に違わぬ美貌だな、と軽口を叩いた男は勝手にベッドに座ると、ぺらぺらと現在の戦局について話し出した。隠したつもりの恐怖心はあっさり見抜かれてしまったけれど、答えは間違っていなかったようだ。
大丈夫。お姫様の美しさは広く噂になっているらしいけれど、その面差しを実際見た者は少ない。なにせ外に出ないんだもの、バレっこない。


「ーーところで」


僅かに緩んだ気持ちの隙間に、低い声が入り込む。それは随分と耳元で響いた。


「姫君が、刺青をお入れだとは知らなかった」
「ッ!?」


左肩を守るように伸ばした右手が掴んだのは光沢のある生地で、肌など見える筈もないことに気付いた時には、もう後の祭りだった。
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