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□プレゼントを、君に
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ルフィ×消防士×指輪
ぱりっと仕上がったローストチキンに、ポークステーキ。あとはビーフシチューを温めて、サラダもそろそろ冷蔵庫から出しておこうかな。
時計の針はまもなく7時。
「ナビ〜!!ごべんな〜〜!!!」
どたばたと騒々しい音を立て、ただいまも言わずエプロンの中に突進してきたルフィは涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、とりあえず落ち着かせる為にまだ温まりきっていないシチューをひと匙口に突っ込んだ。
「……で?おかえり。どうしたの?」
「おう!ただいま!!……じゃねェ、おれ、謝らなきゃいけないことが」
冷めても絶品のシチューに一瞬にまっとしたルフィは、また哀しそうな顔に戻ってすんと鼻を鳴らした。
「お前の誕生日プレゼントにな、指輪を作ってたんだ」
「え、作るって自分で?」
「ああ、3のおっさんに習って……材料買ってロウ付けしたり、ヤスリで磨いたり」
「3?ああ、ギャルディーノね」
嬉しさよりもまず感心した。あんまりお金の遣い方が上手じゃなくて、私が管理してあげるようになってからもしばしば買い食いでお小遣いをすっからかんにしていたルフィが、プレゼントの為に計画的にお金を貯めたばかりか、まさか自分で作ろうとしてくれるなんて!
「今日渡そうと思ってたから、ぐす、暇な時ずっと取り出して磨いてたんだ」
「ほら、鼻かんで」
「ずび、そいでよ、午後に出動かかって、おれ慌ててツナギの尻ポケットに指輪突っ込んで」
「うん」
「鎮火して戻って来たら、指輪がなかったんだ……」
きっと現場に落としてきちまったんだ、がくりとうなだれたルフィはまるで、この世からお肉がなくなったかのような悲愴感に満ちた面持ちだった。
「時間かかっけど、また作るから、待っててくれるか?……今はまだ安物の手作りだけど、いつかでっけェダイヤの結婚指輪買ってやるからな!」
返事はすぐには出て来なくて、代わりにそっとルフィの胸に触れる。2年前、大きな火事で負った火傷の痕は、きっと一生残ってしまうだろう。怖くないと言ったら嘘になるけれど、彼が選んだその生き方は、私の誇りでもあるから。
さあ、折角の料理が冷めちゃう。私の誕生日なのに、テーブルに並ぶのはあんたの好物ばかり。
そのプロポーズみたいな言葉だけで、私はもう、お腹いっぱいだけど。