Book
□A
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愛なんて欠片も見当たらないのだから、愛撫と呼ぶのは相応しくない。なのに愛の顔した前戯は少しずつ鎧をとろかして、暗闇の向こうからひたひたと、確実にその波はやって来る。
「…嫌がってる割には、腰動いてんぞ」
「っ、や、ちが」
違わない。
ずっと、ずっと、悩んでいた。何故、好きな男に抱かれているのにイケないのか。もっと激しく抱かれればいいのかと、あの手この手でゾロを煽った。なのに、野暮で無神経で喧嘩っ早いあの男は、そんな時ばかりいつも優しくて。
確かな言葉が欲しいと、だからこそ思ったのだ。曖昧に濁されたままの不安がとぐろのように巻き付いて、ヒューズが飛ばないよう押さえ込んでしまっている。きっと心通じ合えば、その時は。
快楽は欲しい。でも、誰とでもいい訳じゃない。
筈、なのに。
「…あ、んっ!やぁ!」
「認めちまえよ、お前の中の欲望を」
薬の効果、なのだろうか。
もう何本目かも分からないが、挿し込まれるローの指が増えるたび、全身の毛穴から熱が放出されるような感覚に苛まれる。目の奥がちかちかして、酸素を上手く取り込めない。すっかり抵抗する気力も失われたのをいいことに、ローの左手は豊かな胸の弾力を堪能し、右手は容赦無くナカを弄る。きっと顔を上げれば、水槽のガラスに冷たい笑みを湛えた男の顔が映っているのだろうけど、直視出来ずにぐっと唇を噛み締めた。
(こわ、い)
怖いのは、見たくないのは、深い深い海の底みたいな男の瞳なのか。その口元に張り付いた不気味な笑みなのか。
ーーそんな男にいいように翻弄されて、女の顔をしている、自分か。
「やっ、だめ!いや、いやぁっ…あぁァッ!!」
脳細胞が全部弾け飛ぶかのような衝撃に包まれて、身体はみっともなくがくがくと痙攣する。額に浮き出た汗が顎を伝って、ぽたりと床に落ちた。
引き抜いた指を目を細めてぺろりと舐めると、男はまた、嗤う。その指が次に何をするか分かっていても、それを止めることなど、出来ない。