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□カンタレッラ@
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喉を通る酒は水のように吸い込まれても、心ばかり乾いていく。


しこたま瓶を空け、その勢いで男を誘った。お互いに理性なんて曖昧なもの、水槽の中で生まれては消えていく泡のように、求め合えば姿を見せなくなると思っていた。




「……………今日も、だめか」


薄いキャミソールに隠れた素肌に残された無数の痕は、それだけ男の執着を表すのだと、思う。
なのに、彼は溺れない。強いアルコールにも、魔女の誘惑にも。
だから、私も溺れられない。丁寧に解されていくらでも蜜は滴るのに、快楽の火花は脳の回路を焼き切ってはくれない。この身体は容易く甘い声を吐き出して、男に奪われる演技をする。


中身のない瓶の数を数えようとして、やめた。本当はこのままだらしなく寝転んで朝を迎えたい。「ナミさん飲み過ぎだよー、今水持ってくるからね」なんて、朝食の支度を済ませたサンジ君が覗きに来てくれるのを待ちたいけれど、色々とぐちゃぐちゃな身体を他の男の前に晒す訳にもいかなくて、そんな甘えは早々に捨て去ることにした。




少し熱めに調節したお湯は花の香りの泡をするすると流して、情事の残滓と鬱屈した想いも一緒にごぼりと排水口に呑まれていく。全部全部消えてしまえばいいのだけれど、かき出してもかき出しても細い指では子宮の奥に届かないばかりか、くすぶる熱にさらなる燃料を投下するようで、浅ましく刺激を求め出す前に引き抜いた。
鏡に映った痕を名残惜しげになぞる。自分のものだと、それは声高らかに主張するがごとく、でもならば、どうして。


「……私、そんなに魅力、ないかな」




己が内に飼う魔獣が、愛しい女を喰い殺さないようにと。
海賊狩りの決死の忍耐を、仔猫が知る筈も無く。
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