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□カンタレッラ@
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飲めど飲めど酔えない、というのは時に哀しいことだ。
誰にだって酔ったふりをして、何もかも忘れて、深い澱みで溺れてしまいたい夜もあるのに。




「…ナミ……」
「ん……ゾロぉ……」


幾千の星降る夜に、その輝きの届かないところで息潜め愛し合うのは不健全なことだろうか。とはいえ海賊である彼らに常識やルールなど意味を持たないし、そもそも年若い恋人たちは衝動を抑える術を知らない。


「気持ちいいか……?どっか痛いとこ、ねェか?」
「ん、だいじょぶ……きもち、い……」


アクアリウムバーのソファは十分に幅のある造りだけれど、やはり柔らかなベッドとは違うので、無理な体勢を強いてはいないかと気遣う。目の前は一面ガラス張りの水槽、僅かなモーター音と濡れた呼吸の音が混ざり合って、自分も魚と一緒に漂っているような錯覚を覚える。ならば腕の中にいる、熱帯魚みたいに鮮やかな髪をゆらゆらさせている女は、本当は人魚なのかもしれない。


「……は、あっ……」


艶やかな声が零れるたび、頭と下半身にかぁっと血が集まって、欲に任せて遮二無二動きたくなる。
白くきめ細かい肌は、自分のゴツゴツした手で触れると、それだけで傷付けてしまうのではないかとひやひやする。身体だってボリュームのあるところはあるけれど、腰や手首なんかは折れそうな程に細くて、簡単に壊してしまいそうで。


何度も死線を越えてきた強い仲間だということは分かっている。けれど今抱いているのは、魔女でも泥棒猫でもない、ただのか弱い女だ。こんな無防備な顔を晒して、守ってやらなくても平気だなんて、どうして思える?


「は、出すぞ……!」
「……っ!」


控えめな声とは裏腹にびくびくと震える身体を満足気に抱き締めて、愛している、と心の中で囁く。
ヘーゼルの瞳の虚ろさを、情事の余韻と受け止めて。
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