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□めまい
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(あつ、い)
それは勿論現在進行形で営まれている行為の所為でもあるが、それ以前に感じていた熱っぽさがいよいよ本格的に目を覚ました感じだ。怠いだの具合悪いだの言う隙も与えられずに唇を奪われ衣服を剥ぎ取られる。拒むように狭く閉ざされた場所も、ありとあらゆる性感帯を知り尽くした男の手にかかればすぐに白旗を上げて、しとどに蜜を垂れ流す。女であることは最高の武器で誇りだけれど、女であるこの身体が恨めしい。
熱いな、とせせら笑うように尖った胸の頂を口に含まれて、ころころと舌の上で巧みに転がされればまた熱が上がる。何回達したか分からない身体はぴくりとも動かない、それははたして不調からくるものなのか。
セックスを愛の営み、と初めて呼んだ奴をここに連れて来てくれたら、ぶん殴ってやったのに。こんなに具合が悪いのに無理矢理身体を暴かれることが、愛の営みであってたまるか。
「………随分熱いな?」
快感の余韻に頬を赤らめて、とかそういうレベルでは最早無いのだ。熱、高熱、普通に病気。気持ち悪い。汗も涙も、べたつく体液も、抗えずにただ抱かれるだけの自分も、なにもかも。
具合でも悪ィのかとおでこに当てられた手は、あまりの熱さにぎょっとしたらしくすぐ去ってしまった。
「………馬鹿が。なんで早く言わねェ」
動かない身体中を丁寧に拭かれたと思ったら、脱がされたのと同じくらいのスピードで新しい服を着せられた。ばかりでなく、余計に2枚程追加させられて、おでこに冷たい手拭いのおまけ付き。
「医者を呼ぶ。待ってろ」
あたふたと消えた背中をぽかんとして見送る。拒絶も否定も全部聞く耳持たずで好きなように抱き潰してくる男が、あんなに焦った顔をして。
くらくらする。
束の間感じた冷たい手が恋しいなんて、置き去りにされたのがさびしいなんて、早く戻って来て、安心させて欲しいなんて、そんな、
これはきっと、悪い病で、
もう、助からない。
めまい
(気の迷い、だから、多分)
END