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□王様とギャンブラー
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ぺら、とおっかなびっくり手の中の札をひっくり返したナミは、目を丸くした。


「ハートのキングになってる…!」




月の明るい夜に連れ立って行ったのはその国最大のカジノで、もの凄い集中力と野生の勘、あるいは少しのイカサマをもってボロ勝ちしたナミは意気揚々と祝杯をあげていた。背中も露わな黒のドレスはオーガンジーがふんわりと重なっていて、彼女の妖艶さとあどけなさをそのまま表現する。一人でいればさぞかし引く手数多だっただろうが、隣にいるのがいかにもな目つきの鋭い男では、伸ばしかけた手はそのたびすごすごと引っ込められるだけ。


「私が引いたのはスペードのエースだったじゃない!なんで?エースは?ねえ、どうやったの?エースは何処にいったの?」


戯れに外科医の器用さを発揮して、カードのすり替えマジックを披露したところ、意外なくらい食いつきが良かった。気まぐれで飽きっぽい猫の気を惹けるのは大歓迎だが、エースエースと連呼されるのはあまり面白くない。それを言葉や顔に出してしまえば、何回かしか会ったことのない船長のお兄さんにまで嫉妬するなんて馬鹿じゃないのと呆れられるのは目に見えてる。男心というものを理解していない、いや、それも聡い女の作戦の一部かもしれないが。




刺青に彩られた指が織りなす鮮やかなリフルシャッフルを、ひとしきり感嘆の眼差しで見つめた後、紅い唇が優雅に弧を描いた。


「ハートのキング、って自分のことでしょ。ローって意外とやきもちやきね」
「…………悪いか」
「ぜーんぜん。そういう、どう転ぶか分からないところが面白いんじゃない。ギャンブルとおんなじで」




やっぱり見抜かれていた。
こんな紙切れ一枚で彼女の心を掴めるのなら、手品師にでも占い師にでも転職するのだけれど。





王様とギャンブラー
(狂っているのは、こちらの方だ)





END
 

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