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□孤独の鳥籠
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カーテンを開けに行くのは、ベビー5の役目だ。
任務で数日不在だという彼女の代わりにその役目を任されたのは、若がおれを信頼してくださっているからだ。






「ーグラディウスは、外さないのね……そのゴーグル」


失礼します、おはようございます、失礼しました。
喋るのはおれだけ、彼女はぼんやりと頷くだけ。
それだけの筈だった。
三日目の朝までは。


「私の……友達にも、ゴーグルが似合う人がいてね」


苦しそうに笑った彼女が、仲間のことを想っているなんて一目瞭然で。
直視してはいけないと言い聞かせていても、ここに来た時より更に痩せた身体には、ゴーグル越しにも明らかな所有の痕が幾つも浮かんでいて。




若は彼女を愛していて。
でもそれは彼女の望むものではなくて。
彼女は苦しんでいて、
若のやることに間違いは無い筈で、
家臣たるもの、王に隠し事など出来る筈も無くて、
けれど。




「変わったことは」
「…何も、ありませんでした」


ご苦労、と肩を叩いた若は、そのまま自室へと消えた。枷で囚われた姫の、美しき鳥籠へ。






若は気付かれただろうか。
おれの返事が一拍遅れたことに。




おれの腕に微かに残る、蜜柑の香りに。





孤独の鳥籠
(それは、開けてはならない檻)





END
 

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