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□恋は鍵屋を嘲笑う
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「ナミ屋を嫁にくれ」




トラファルガー・ローは器用な男であった。
外科医に要求される繊細な手指の運びは、医者の息子である故か生来の素質として備わっていた。勤勉かつ真面目な性格もあって難しい医学書なども幼い頃から読みこなしたし、同年代の子供の中では群を抜いて成績優秀だった。加えて身体能力も申し分なく、大抵のことは少し習えばなんなく習得した。
それらは海賊として高みを目指すのにより有利な条件であったから、彼が数奇で残酷な人生を辿る上で、神は彼に出来る限りの配慮を施したものとも言える。


そんな彼に、たったひとつ不得手なことがあるとすれば。




「「「ダメだ!!!」」」


彼の前に立ち塞がるのは、レッドラインよりも遥かに高い壁ーー航海士を愛してやまない三人の男たちであった。聞き捨てならない台詞をのたまった男をあっという間に取り囲み、怒涛の勢いで文句をつける。


「ナミはおれの仲間だぞ!」
「いよいよ睡眠不足が頭にキたか?寝言は寝て言え隈野郎」
「余ッ程みじん切りにされてェらしいなてめェは」


対するは目的の為には手段を選ばない男、ご存知トラファルガー・ローである。


「……麦わら屋」
「なんだ!?」
「この間の宴で、黒足屋がおれたちにって持ってきた料理……てめェ全部食ったよなァ?」
「うぐ」
「ゾロ屋……お前もだ。酒がねェからってコッチの船に勝手に上がり込んで断りもなく酒全部掻っ攫ってったの、ウチのクルーが何人も見てるんだが」
「う」
「それからトニー屋」
「ええぇ!?そこは流れ的にサンジじゃないの!?なんでおれ!!?」
「コイツは不問に付すつもりだったが、お前に貸した医学書、戻ってきた時にゃ至る所に蹄の跡がべったりだったぞ」
「ぎゃあああ!ごめんトラ男ー!!」
「最後に黒足屋」
「チョッパーにまで文句つけやがって、言いてェことがあるならさっさと……」
「いつも美味い飯をありがとう」
「やっ……、やめろ!おれがそういう不意打ちの眩しい笑顔に弱いの知っててやってんだろ!!」


……




「そういう訳で、この島にいる間コイツは借りていく」
「ちょっと!何で誰も肝心の私の意思を聞かないのよー!!」
「連帯責任だ、諦めろ」




かくしてサニー号の愛され美人航海士は、ちゃっかりローにお持ち帰りされたのである。
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