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□fever
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「…だからよー、キレーな蝶々がいたからそれ獲ろうとしただけなんだって!」
「紛らわしいのよ!てっきりみかん泥棒かと思ったじゃない」
頭にたんこぶを作ってむすくれるルフィに、八つ当たりをした感は否めない。一度拳を出した手前、素直に謝れないのが私の悪い癖だ。本当は大きく育ったみかんはもう食べ頃で、一つくらい彼にあげたっていいのだけれど。
溜め息を吐いた私に、ルフィのほっぺたはますますぷーっと膨れた。
「ナミはバカだなー、知らないのか?蝶々は毛虫になるんだぞ?」
「…………逆だけどね」
「だからおれは、ガイチュークジョをしてやったんだ!正当なホウシュウを要求する!」
…もう一発殴られたいのだろうか。天真爛漫なところはルフィの最大の美点の一つだけれど、空気の読めなさたるやその長所を限りなくマイナスに近付ける。
「みかんならあげないわよ」
「なんだよー、ナミのケチ!!」
「こら、苦しい!!」
伸びた腕にぐるぐる巻きにされて、思わず笑いが漏れる。もう、いつまで経っても子供なんだから。
「ナミ、やっと笑ったな!」
「え?」
「つまんねェ顔してると本当につまんなくなるぞ?…あー、ナミ、みかんの匂いがするー」
「どさくさに紛れて嗅ぐな!いたっ、噛むな!私はみかんじゃないのよ!!」
つまらない顔って、満たされない女の顔のことかしら。
ルフィが人の髪に顔をうずめて、ついでに首筋を噛んだりするものだから、先程までのことを急に思い出して、顔が赤くなる。
「っもう、アンタはいつもみたいに冒険してなさいよ!!」
「だってこの島、ちっこいし面白いモン無ェんだもん。ジャングルでもあればなー。あ、そうだ!トラ男のところのクマと釣りする約束してたんだ!」
「じゃあ早く行きなさいっ!」
その名前に動揺したのは確かで。
絡みついた腕を解いて、女部屋に駆け込んだから。
「………トラ男の匂いも、する」
ルフィの呟きは、聞こえなかった。