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□かりそめラブ・アフェア
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たとえば、だけど。
若くて可愛い女の子が一人でお酒を飲んでいて、そこに雨に降られた大きな男の人がやって来ました。派手なピンクのもふもふが気の毒なくらいびしょびしょに萎んでいたのが可笑しくてつい笑ってしまったら、それに反応した彼がカウンターの隣に腰掛けて、失礼な態度に怒るでもなく気前良くお酒を奢ってくれて。勧められるうち杯を重ねて、案の定気分が悪くなって。あれ、私は滅多に酔っ払わない筈だけど、物事には例外が有るわよね。見兼ねた彼が私を送ってくれようとしたけれど、なにしろこちとら吐き気と頭痛との全面戦争中、船の所在地なんて言える訳も無し。困り果てた紳士は取り敢えずホテルを取って、優しく介抱することにしたのでした。ところがお嬢さん、襲い来る波に耐えられず、敢え無く醜態を晒す羽目に。ええいこの際致し方無い、汚れた服は取っ払って兎に角彼女を休ませよう。漸く落ち着いた寝顔を見てるうち、自分も眠くなって…


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そうだ。これだ。きっとそうだ。
それなら裸同然の、疑いようもなく裸なのだが、こんな恰好の説明もつく。どう考えたってこれだけガタイの良い人、私の華奢な身体が受け入れられる訳も無いもの。腰がもの凄く痛むことが気になるけれど、酒場のスツールが余程合わなかったに違いない。




…くつくつと、喉で嗤う声が聞こえた気がして、顔を上げた。
鈍く光るレンズの奥、見えない瞳に確かに射抜かれて。引くだけ引いた筈の血の気が水平線の向こうで、反対側の陸地を水没させた。


「何点か訂正しておこう」


放たれた声音は寝起きの掠れ声なんかじゃない、ずっと前に覚醒していた明瞭なそれ。


「ひとつ、お前は飲み過ぎた所為で酔っ払った訳じゃない。おれが度数の高い、それでいて飲み易い酒ばかり作らせたからだ。ふたつ、そもそもおれはお前を親切に送ってやろうなんてハナから考えちゃいなかった。みっつ、このホテルは取り敢えず予約したんじゃない。ここは『おれの』ホテルだ。……それから」


裸なのは、じっくり隅々まで、堪能させてもらったからだぜ?




ーー嘔吐以上の醜態が、昨夜、起こった模様です。
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