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□モッキンバードは二度裏切る
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からかうような声音を出した男に対して、ナミと呼ばれた小さな猫は精一杯の抵抗を見せた。
「……ドフィが」
「あ?」
「ドフィが、私に、服をくれないのがいけないんじゃない!いつもいつも頼んでるのに!」
「着飾るのは、外に出る時だけで充分だろう?ここにいる間は必要無ェじゃねェか、四六時中おれに抱かれてるだけだってのに」
「……!」
反論の言葉をあっさり失ったナミは涙目になって、背後から突き刺さるローの視線を避けるように縮こまった。
どうやらドフラミンゴの『用』とはこのことだったらしいと察したローは、これ以上の滞在は無意味とばかりに扉に手をかけた。
「まあ待てよ、ロー」
「……………なんだ」
再び振り返ることになったローは機嫌の悪さを隠そうともせず、尖った声を出した。
本音を言えば今すぐ帰りたい。久々に心を動かされた美しい硝子細工を、呆気無く取り上げられた上に目の前で床に落とされたような気持ちで、無性に苛々していた。
「お前は本当によくやっている」
「………」
「自慢の部下だよ」
「……光栄だな」
相変わらずにやにや笑いを浮かべたまま、男の大きな手が小さな頭を滑るように撫でる。ナミはシーツに再び潜り込むことも許されず、これ以上ローに素肌を晒されないで済むようにと、ただ大人しくされるがままだった。
「褒美をやらねェとな」
「……褒美?」
「お前のこれまでの働きに見合った褒美をな……何がいい?何でもいいぞ。金か?モノか?なんなら、どっかの島ごと買い取るか?」
「………何でもいいのか?」
「あァ、……ふたつ、以外なら、な」
ドンキホーテファミリー異端の幹部。それが、ローだった。
基本的には国外の、それも長期の任務にしか関わらず、滅多にドレスローザには現れない。今何処にいるのかも、殆どの幹部は知らない。
『血の掟』すら、ローには適用されない。
あの日から、ある男が死んだ日から、ローはただ黙々と任務をこなしていたが、年に一度は我を忘れて、ドフラミンゴに襲い掛かることがあった。
返り討ちにされるのが分かっていても、衝動を抑え切れずに。
その『ふたつ』が、まさに今望むものであることを嗅ぎ取ったローは、返事もせずに扉を乱暴に閉めた。