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□モッキンバードは二度裏切る
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誰、という問いに答えるタイミングをすっかり失ったが、女もまた同じ問いを繰り返す気は無いようだった。ジョーカーという名前を口にしたことで、どうやらローが見慣れぬ部下の一人であるらしいと合点した女は、警戒心を僅かに緩めて少し身じろぎをした。はらりと鮮やかな髪が広がり、それが太陽の光を急激に集めて、白い空間の中でそこだけが妙な現実感を伴って浮かび上がる。


「ここにいたのか、ロー」


沈黙を破ったのは、ローが探していた人物だった。
男は部屋の中央までつかつかと靴を鳴らして、どさっとベッドに腰掛けた。その衝撃で小柄な女はバランスを崩したが、ドフラミンゴによってシーツごと抱え上げられ、向かい合うように膝に乗せられたので、ローと交わっていた視線は途切れてしまった。


「任務ご苦労だったな。報告書は受け取った」


ひらひらと紙を振ってみせたドフラミンゴに、ローは舌打ちを返す。


「……なら、おれを呼ぶ必要など無かっただろう。経過と結果は全部、そこに書いてある」
「フッフッフッ!冷てェ男だよ、お前は。久々に可愛い部下のツラを拝みてェと思うのは、普通のことだろう?」


男がぱらりと紙をめくる拍子に、女の肩まで被さっていたシーツが落ちて、眩いばかりに白い背中が露わになった。


「きゃ……!」
「っ、おい」


二人の動揺をさして気にも留めず、ああ悪ィ、と言った割には布を引き上げようともせず、ドフラミンゴは笑った。
シーツの下を想像しなかった訳では無いが、実際見せつけるように晒されたその輝く素肌はあまりにも美しく、震える背中と羞恥に染まる横顔からどうにか視線を外して、ローは口を開いた。


「あんたに特定の女を囲う趣味があったとはな」
「気になるか?これは気まぐれな猫でなァ、懐かせるのに大変な手間を掛けさせられたよ」
「……そんなお気に入りの猫を、他の男の目に晒していいのか?」


ーアンタの首を狙ってる、このおれに。


「ンー……?それもそうだな」


ローの言いたいことなどみんな見透かしているのだろうか、ドフラミンゴは余裕の表情で笑い、女の顔をわざとらしく覗き込んだ。


「ナミ……お前、そんな格好で、おれの可愛い部下を誑かすつもりか?」
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